茨城・常総水害10年 原告らの思い 被害防げたはず

2015年9月の関東・東北豪雨により茨城県常総市の鬼怒川が氾濫し、大規模な被害が発生してから、この9月で丸10年。住民らが国に損害賠償を求めた訴訟は最高裁に移り、11月に住民側が上告理由書を提出する予定です。一審原告は31人と1法人でしたが、死去や訴訟費用の負担、先行きの不透明感などから、上告審をたたかうのは今月末時点で14人。うち2人に、今の思いを聞きました。

(茨城県・小池悦子)

「大雨の情報がくると、“また同じことが繰り返されたら”という不安が湧いてくる」。

常総市水海道淵頭町在住の鈴木憲夫さん(78)。被災時は自宅が約90センチメートル浸水しました。朝起きると屋外は「湖のよう」で、1階は水浸しでした。「洗濯機や冷蔵庫はひっくり返り、プカプカと浮いていた。水の怖さを実感した」。

被害住民らは18年8月、国による河川管理に瑕疵があったとして国を相手取り提訴。対象は、堤防の役割を果たしていた砂丘からの溢水地点と、堤防の決壊地点の2カ所です。溢水については、水戸地裁と東京高裁が国の瑕疵を認め、賠償を命じました。決壊について、住民側は「堤防が低い地点の改修が、後回しにされた」と訴えましたが、地裁・高裁ともこれを退けました。

国いいなり判決

鈴木さんは、「提訴した当時は、損害額を満額取り戻したいという思いだった」と語ります。しかし訴訟が進むにつれ、考え方に変化があったといいます。

「一審で国(国土交通省)が“堤防整備は高さが低いところからでなく、堤防の幅が不十分なところから進める”と公言した。これを聞いて驚きと疑問が大きくなった」。

国は堤防決壊地点について、一審・二審とも、この主張を維持。今年2月の二審判決も、国による堤防の安全度評価が「十分な合理性を有している」と判断しました。

鈴木さんは、「一審判決は、堤防の高さを基準に改修することも『あり得ないではない』と含みを持たせた。しかし二審では、それすらなかった。国いいなりの判決に怒りが湧いた」と語ります。

「二審の頃から、損害を取り戻そうというよりも、国民のための堤防整備をしてほしいという思いが強まった。国の『幅が優先』という結論は撤回してほしい」。

暮らし一変した

もう一人の上告人、常総市上蛇町に住む石川栄子さん(84)。当時は日本共産党の常総市議。自宅は床下浸水でしたが、「自分のことより周囲の大変な状況の対応などに追われて無我夢中だった」と振り返ります。

公表された災害関連死13人のうち9人と関わりました。数字だけでは知ることのできない、水害後の暮らしの苦悩を肌で感じてきました。

「関連死の申請ができたのにあきらめた人が何人もいた。農業が続けられなくなり生きがいを失って自死した人もいた。当たり前の暮らしが一変する恐怖。災害はとても怖い」と強調します。

水害発生前に、常総市などの自治体が国に複数回、堤防の整備と改修を要請していたことを、訴訟で証言しました。

「国は要望を受けて早期に対策をとってくれていたら、大きな被害にはならなかったのではないか」。訴訟を通じ、水害の責任をめぐる国の姿勢を見つめてきました。

「水害も大変だったが、その後の生活を立て直すのも大変だった。被害を受けた人への支援はしっかりしなければならない。国や自治体の自然災害への対策は重要だ」。

(「しんぶん赤旗」2025年9月28日付より転載)

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