2019焦点・論点 都市開発の視点から再稼働に警鐘 元茨城大学教育学部教授・乾康代さん

日本原子力発電が再稼働を目指す、茨城県東海村の東海第2原発。都市計画の視点から住宅地の安全確保を無視した東海村の原子力開発の在り方を批判し、再稼働の動きに警鐘を鳴らしてきた乾康代さんに話を聞きました。

乾康代さん

乾康代さん

〈福島原発事故の究明と復興が進まない中、近接する東海第2原発が再稼働されようとしています。〉

福島の原発事故から8年が過ぎましたが、福島県では今もなお4万人を超える人々が長期の避難を余儀なくされています。避難指示が解除された地域でも被ばくリスクは高く、帰りたくても帰れない人々が多数にのぼります。二度と原発事故を起こさない、私たちはこの誓いを守らなければなりませんが、東海第2原発の再稼働はこの誓いに対する重大な挑戦です。
日本の原発立地は、原発周辺に開発規制を設けないまま進んできました。住宅地を工業地域から遠ざけるというのは都市計画では普通に行われることです。これに照らせば、原発周辺に開発規制を設けないことがいかに異常かが分かると思います。
私は、この周辺開発規制のない原発立地を「東海モデル」と名づけました。日本で最初に商業原発を設置した東海村で形作られたからです。ここでは、住宅地が原発に隣接しているという異常な事態が起こっています。

〈そもそも東海村に原子力施設が集中立地するようになった経緯とはどのようなものでしょうか。〉

米・アイゼンハワー政権の「アジア原子力センター」の日本誘致に失敗した直後の1956年4月、日本政府が日本原子力研究所(原研、現在は日本原子力研究開発機構)の設置を決めたことがきっかけです。
政府は原研設置を足場にして、東海村に日本の「原子力センター」をつくることにしました。
この「原子力センター」設置に無視できない役割を果たしたのが「東海原子力都市開発株式会社」(東海都市開発)です。この「会社」の実像はまだ描き出せていませんが、正力松太郎初代原子力委員長(元読売新聞社主)に原子力の平和利用をすすめたとされる柴田秀利氏(元日本テレビ専務)の文書からこの「会社」の「設立趣意書」が見つかりました。
この「趣意書」は1957年に作成されたものですが、この時点でこの「会社」は、村内14カ所で事業所用地を確保していたことが書かれています。
これらの用地は、現在の原子力関係事業所や給与住宅団地の位置と合致します。東海都市開発は、東海村の「原子力センター」の建設を担い、今日の東海村を形作りました。

〈東海第2原発の周辺30キロ圏内は94万人が住む人口密集地です。原発周辺の開発規制を設けない「東海モデル」はなぜ生まれたのでしょうか。〉

「東海モデル」は政府の都市計画規制の取り組みと、これを受けた茨城県の計画策定という2つの過程を経て作られました。
まず政府が取り組んだのは「原子力都市計画法」の制定でしたが、原子力開発勢力に押されて挫折。これに代わり原子力委員会答申が出されました。
「答申」で注目されるのは「グリーンベルト構想」です。これは、都市の拡大と緑地保全を目的に都市周辺の農地や林地の開発を規制するものです。これを原発の2キロ圏に指定し、その外側6キロ圏は人口が集中しない地区とするもので大変重要でした。
しかし茨城県は、「人口抑制につながる」として構想を取り入れませんでした。
その結果、東海村の原発周辺の開発規制は何一つ形に残らないまま、住宅地が原発に近づいて開発されていきました。この開発規制なき「東海モデル」はその後全国に広まりました。
また、周辺開発規制なしで原発立地をすすめる役割を果たしたのが、原子炉立地審査指針です。
「指針」は、原発立地の安全性について妥当であるかどうかを判断するものです。ここでは、原子炉の周辺に「非居住区域」、その外側に「低密度人口地帯」を設けることを規定していますが、明確な数値で「距離」の規定をしませんでした。
東海村での原子力開発は、安全を担保すべき都市計画を歪めるもので、この歪んだ「東海モデル」が全国の原発立地に広がっていったわけです。

〈住環境の観点から、東海第2原発再稼働の動きをどう見ますか。〉

住環境の基本条件として「安全」「健康」「快適」「効率」がありますが、一番大事なのが「安全」です。安全が保障されなければ住環境としては成り立たないからで、安全は住環境の成立条件です。
いま政府と日本原電は、東海第2原発の再稼働を目指していますが、これは大変な問題です。この原発は東日本大震災で被災した老朽原発で、30キロ圏内には94万人が住み、復興途上の福島や首都圏にも近すぎる立地です。もし事故を起こせば、被害は周辺住民にとどまらず、福島県の被災者・避難者や首都圏数千万人を巻き添えにする可能性もあります。
さらに日本全体を見渡せば、人口が密集する狭い国土に、原発が60基もひしめくように立地しています。市民の生命と安全を脅かす原発は、絶対に再稼働させてはいけません。

(聞き手=茨城・高橋誠一郎)

(「しんぶん赤旗」2019年6月7日付より転載)

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