許すな雇用破壊 「長期勤務」で募集、派遣450人突然解雇 茨城・ファナック筑波工場

「長期勤務できる方」と求人広告にあったのに、突然の解雇─。
茨城県筑西市のファナック筑波工場で、約450人の派遣労働者全員が6月末で契約を打ち切ると宣告されました。
「こんな理不尽なことをするのか」との訴えに、現地へ向かいました。


緑がまぶしい田園風景をすすむと突然、黄色い巨大倉庫のような工場が目に飛び込んできました。
産業用ロボットメーカー、ファナックの筑波工場です。
工場は全部で7棟。スマートフォンにメーカー名を刻印する工作機械をつくります。
正社員と契約社員のほか、派遣大手ワールドインテックから派遣された約450人の派遣労働者が働いています。
求人広告を見た労働者が、北海道から沖縄まで各地から筑波工場に集まってきました。

求人広告では絶好調の職場

ワールドインテックは6月11日、突然「契約は6月末で終わり」と派遣社員に解雇を言い渡しました。
2月末から働いていた田中昭さん(40代、仮名) はさまざまな派遣を経験してきましたが、「突然の全員解雇なんてあんまりだ」と憤ります。
求人雑誌には、「絶好調のスマホ関連事業」「160名追加増員!」「長期勤務できる方」と大きく書かれています。
「月収例30.4万円」「寮完備」「食堂完備」など好条件。
茨城県内の特設面接会場は17カ所もあり、大手派遣会社との安心感もありました。
面接でワールドインテックの担当者から「行けば稼ける。長期で働ける。当分続くから大丈夫」と言われ、「条件も悪くないし、1年は働けるだろう」と働き始めました。

5月初めまで毎週数十人規模で派遣社員が配属され続け、田中さんも毎日1時間の残業。
「すごい。この仕事は当分続くだろう」と思っていました。3カ月ごとの契約更新です。
契約書では、「更新あり」にマルがついています。
5月末に契約更新の意思確認をされ、「まだまだ働き続けられるだろう」と期待した矢先の解雇通告でした。
さらに驚いたことに、6月8日から働き始めた同僚も6月末で解雇といわれました。
「仕事があるから直前まで派遣を受け入れたはずなのに、あまりにもひどい仕打ちだ」と田中さんはいいます。

「月収30万」が実態は23万円

「なぜ急に解雇なのか、まったく理解できません」。
こう話すのは、初めて派遣で働く小林良さん(40代、仮名)です。
地元で面接を受け、ファナックで働くためにアパートを借りました。
田中さん同様、5月末に契約更新の意思確認をしたばかりです。
労働基準法第20条では、使用者は少なくとも30日前に解雇予告を通知すべきだとしています。
しかし、ワールドインテックは、月末での解雇を月の半ばに通告しました。
「働きたい人は7月末まで働いてもいい」と期間延長も提示しながら、次の派遣先を労働者にあっせんするとしています。
しかし、派遣先が九州だったり、賃金が3分の2にガクンと下がるような悪条件だったり。2人とも納得がいきません。
実際の働かされ方も、求人広告とはかけ離れていました。
「月収例30.4万円」とありましたが、1日2時間残業しても小林さんの月収は23万円。
最近では残業が減り、収入は月16万円足らずです。
「食堂完備」も実態は仕出し弁当で、510円、470円と値段は正社員より高めの設定です。一番安い280円は、そばだけ。
小林さんは「どうせ腹持ちしないから」と昼食を抜き、アメとコーヒーでしのいでいます。
田中さんが期待した「寮」は、工場まで会社のバスで50分。寮費は月4万6000円にも。
7月末まで働けば全員に10万円ずつ支援金を出すといわれましたが、7月末に退寮せよと迫られているため、ギリギリまで働けば次の仕事を探す時間もありません。
蓄えもわずか。「このままでは、仕事も住む場所もいっぺんになくなってしまう。いったいどうすればいいのか」

“需要先細り”会社の都合で

なぜ派遣社員全員が突然首を切られる事態になったのか。
派遣先のファナックは「しんぶん赤旗」の取材に対し、「『7月末までに人員を削減しなければならなくなった』と6月上旬に派遣会社に連絡した」と答え、削減の理由は明らかにしませんでした。
6月26日に開かれたファナック株主総会の事業報告では、「平成26年度において活発だった一部IT産業の短期的な需要が鈍化してゆくことが予想されるなど、平成27年度は予断を許さない状況になるものと思われます」と強調。
「このような状況に対処する」とあるように、需要の先細りに備えた「派遣切り」とみられます。
労働者派遣法改悪案の成立を許せば、こうした低賃金で“いつでも解雇”できる派遣労働者を企業が無制限に「活用」できるようになります。
企業の都合による「派遣切り」を許さず、すべての労働者が安心して働ける仕組みづくりが急がれます。

(堤由紀子)

(「しんぶん赤旗」 2015年6月30日付より転載)

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