クローズアップ 常総水害訴訟 上告の住民「堤防決壊 国の瑕疵」 当たり前の河川管理を
2015年9月の関東・東北豪雨により茨城県常総市の鬼怒川が氾濫し、大規模な被害が発生してから今年で10年。被害住民らは国による河川管理に瑕疵があったとして18年8月、国を相手取り提訴しました。
堤防の役割を果たしていた砂丘からの溢水と堤防の決壊地点の2か所のうち、溢水については水戸地裁と東京高裁で国の瑕疵を認め賠償を命じたものの、堤防決壊についてはいずれも訴えが退けられました。上告した住民は、「低い現況の堤防から先に改修する、当たり前の河川管理を」と強調します。
(茨城県・小池悦子)

東京高裁判決を前に裁判所に向かう原告、支援者ら=2月26日、東京都千代田区
4月2日、常総市役所1階ホール。原告の住民、訴訟を「支える会」会員ら十数人が集まりました。新聞、テレビの記者を前にした上告の説明会です。
片倉一美・原告団共同代表は、「国は最も危険な箇所の堤防整備を後回しにし、水害を発生させた」と強調しました。
一部勝訴した若宮戸地区での溢水では、川のそばの砂丘が民間業者に掘削されていました。一審・二審判決はともに、砂丘が堤防の役割を果たしてきたと認定。にもかかわらず国が、「河川区域」に指定していなかったため、掘削によって堤防の安全性を失ったことが「河川管理の瑕疵に当たる」と判断しました。
一方、堤防が決壊した上三坂地区については、堤防整備の時期と順序が争点に。住民側は、「堤防は上三坂が最も低いのに、国は別の場所の堤防整備を優先させた。現況の堤防の低いところから改修するべきだった」と繰り返し指摘しましたが、一審・二審とも認められませんでした。
住民が問題視するのは、国が堤防の安全度を判断する際に用いる「スライドダウン評価」です。
高さは足りていても幅が基準断面に満たない堤防は幅が狭い分、現況の堤防高を低く(スライドダウン)評価する仕組みで、場所により越水に対する堤防の安全度が逆転します。
その結果、現実には上三坂の堤防よりも高い場所が「堤防の安全度が低い(早く越水する)」と評価され、整備が優先された─。これを原告は「国の瑕疵」と主張します。
しかし判決は、スライドダウン評価について「堤防の高さだけでなく堤防の質も含めた機能を評価するもの」、「十分な合理性を有している」(東京高裁)としました。
片倉氏は、「水害で一番怖いのは決壊だ」として、「決壊の原因は約90%が越水。越水を防ぐためには、現況の低い堤防を高くすることが重要。水害を減らすには、現状の低くて危険な場所から確実に、一つひとつ河川改修を進めることこそ河川行政の責任だ」と力説しました。
(「しんぶん赤旗」2025年5月15日付より転載)