東海第2原発廃炉を 施工不良発覚1年

(上)宮嶋謙・茨城県かすみがうら市長に聞く

住民の命守る課題 党派超えて議論を

運転開始から45年を迎える日本原子力発電・東海第2原発(茨城県東海村)。2011年3月11日の東日本大震災以降停止している首都圏唯一の原発です。23年10月には防潮堤工事の施工不良が内部告発により発覚しました。東海第2原発の再稼働に反対しているかすみがうら市の宮嶋謙市長に聞きました。

(茨城県・小池悦子)

宮嶋謙市長

―かすみがうら市は13年に「非核脱原発平和都市宣言」(かすみがうら市ホームページに掲載)をしています。宣言を継承していく根底にある思いは何ですか。

原発そのものの危険性と、核廃棄物・使用済み燃料の問題です。核廃棄物を10万年にわたって安定的に隔離保管できるのか? 日本に安定した変動しない場所はないと思います。福島第1原発事故で拡散したセシウムの量は、広島原爆の168倍にもなるんですよね。この責任を誰がとるのか。事故や廃棄物の漏出であったり、人類の滅亡のリスクをはらんでいる危険があります。これを目の前の経済問題とてんびんにかけてはならない。

将来の地球に責任を持つ立場であれば、これほど危険なもの(原発)を稼働させてはならない。ウクライナ危機でも原発がターゲットになりました。自国への核兵器になってしまう危険性もあります。

安全性の実態

―東日本大震災、能登半島地震と、地震が切り離せない日本で原発との共存をどう考えますか。

地震大国・日本で、いつどこでどのような規模の地震が起こるかは分かりません。世界中どんなに素晴らしい科学者でも地震は予知できませんよね。

東海第2原発の地震の揺れの強さを示す基準地震動の数値にも信ぴょう性がないと考えます。現在1,009ガルとしていますが、原発ができた時は270ガル、3・11の時は600ガルと、時間がたつほど耐震性が増すのは疑問です。22・23年と経年劣化などの理由で火災事故を8件も起こしている事実があります。そのような施設など、世界中を探しても他にありません。これが東海第2原発の安全性の実態です。

―自治体が課せられている避難計画についてどう考えますか。

避難計画は机上の空論です。複合災害が起これば、道路破損や停電、断水などで、30キロ圏内92万人の避難が可能なのか。避難先自治体の状況が全く分かりません。

当市はひたちなか市から7,000人の受け入れ予定ですが、もし当市に大きな被害が出た場合は、受け入れは困難になります。

「自分の命が危ない」となったら、人はパニックになります。逃げるのは当たり前の行動です。想定外のことが頻発するのは避けられません。

―現場関係者からの告発で明らかになった防潮堤工事の施工不良問題についての受け止めは。

防潮堤工事の施工不良については本当に驚きました。こういう工事や連続する火災事故など、(原電の)管理能力が問われます。ひどい工事の実態や、それを隠そうとした対応も含めて、原電の現状を表していますよね。防災対策を本気でやっていこうというのが感じられないです。

―東海第2原発廃炉の国民世論を高めるために、どんな方法が考えられますか。

自分ごととしてエネルギーの問題を考えてほしいです。家族のこと、町の将来のこと、何よりも自分のこととして立ち止まって考えてほしい。「非核脱原発平和都市宣言」にも書いているんですが「科学技術に頼りすぎている生活を振り返ってほしい」と思います。

そして地元の議員に東海第2原発の再稼働について、どう考えているのか、を問いかけることが大事ですよね。誠実に答えてくれる議員かを判断するのは有権者ですから。

再エネ王国に

―市長の政治姿勢の根幹は何ですか。

東海第2原発再稼働の問題は、市民の命や暮らしを守る根幹の問題です。これだけは譲れません。政治的な立ち位置やイデオロギーの問題にするべきではありません。

他のみなさん(首長)も、私も抱えている課題はたくさんあります。でもこれを言わないで、何のために政治家をやっているのか。これだけは外せません。なかなか議論が深まらない県議会でも、ぜひ議論をしてほしいです。

―県議会には特別委員会もなく、現地視察も東海村議会は行きましたが、県は副知事と担当課しか行っていませんね。

茨城県は保守王国であり、政党のしばりがとても強いですね。県議会の中でも、原発問題について、触れてはいけない。ご法度のところがあるように感じます。とても歯がゆいです。「これで県民の将来、命を本当に守れますか。責任ある政治家としての責任をとれますか」と強く言いたい。

県は東海第2原発は廃炉にして、再生可能エネルギー立国として、最先端の県になってほしい。日本一、安全な町、クリーンな県にかじをきってほしいです。

(中)告発した工事関係者

勇気もち訴えた思い 共産党が受け止める

茨城県東海村にある日本原子力発電の東海第2原発。工事関係者の伊藤優さん(仮名)から日本共産党への内部告発で、防潮堤工事の基礎部分での施工不良が明らかになり、間もなく1年になります。2021年9月から工事に携わった伊藤さんの思いは―。

(茨城県・小池悦子)

「全国あちこちの基礎工事を経験しているが、あんなひどいのは初めてだった」と伊藤さんは振り返ります。

赤旗支局に送られた告発者のメモ

電話での圧力

現場では工事不備の声が各所で上がっており、施工不良が明らかに分かる事態となっていました。「上司は慌てふためき、“アラ”(不良な事態)をどう隠すかに心血を注いでいた」、「(防潮堤工事の)南北の基礎で“アラ”が出ている。他の場所でも同様の事態が起きていることは明らかだ」と話します。

伊藤さんは、南北基礎の近接部での施工不良も指摘し、「隠すために上物をつくってしまったことは今でも腹だたしい。近接部の基礎工事も調査が必要だ」と力を込めます。事態を修正するために「工法を変えた方がいい」と、提案しましたが聞き入れられず工事は強行されました。一方で声を上げ続けている伊藤さんに、原電本店から「話はついたから、これ以上モノを言うな」という電話での圧力もありました。

北基礎の剥き出しの鉄筋やコンクリート未充填について説明を受ける6市村長ら=5月27日、東海村

情勢が急転回

基礎工事現場について、伊藤さんは「特殊で難しい場所ではあった。他の賢いところ(大手ゼネコン)は嫌がって他の場所を選んでいた」と言います。「それなのに請負会社が、現場に寄せ集めた人材は、技術者とは言えない素人集団だった。最終的に取り返しのつかない状況になって専門の職人が入ってきたがお手上げ状態だった」と話します。

そんな時、伊藤さんが駅で見かけたのが、「共産党の人たちが原発再稼働反対と宣伝している姿」でした。「駆け寄って話しかけたい思いがわき上がったが、声をかけられなかった」と打ち明けてくれました。

伊藤さんは23年9月6日、“職人としてのプライドをかけて”共産党の大名美恵子東海村議に告発電話をかけました。伊藤さんは「自民党の知り合いもいたが、そっちではだめだろうと共産党へ話した」と振り返ります。

伊藤さんの訴えを聞いた大名氏は、江尻加那県議へ相談。江尻氏は県へ問い合わせ、原電への確認を要請。あわせて塩川鉄也衆院議員と岩渕友参院議員、江尻氏と大名氏で、伊藤さんからオンラインで聞き取りました。さらに原電に「質問書」を送付し、県と村には「要請書」を提出しました。原電から期限内に回答がなく、10月16日、党としての記者会見を開催しました。

すると原電は同日、大慌てで緊急記者会見を開催。共産党が指摘した施工不良の事実を認め、工事を中断していることが明らかになりました。

原電は今年6月18日、原子力規制委員会から「防潮堤工事の一部やり直しか、建て替え」を提案されましたが、期限内の回答を出せませんでした。

大名氏は、「勇気を持って訴えた伊藤さんの思いを受け止め、何としても東海第2原発の廃炉を求めていく」と力を込めます。

伊藤さんは、茨城を離れた現在の暮らしを語る中で、「ある日、自宅近くに停車中の水戸ナンバー車を見て、ここまで原電が追いかけてきたかと思ってしまった」と漏らしました。背負い続けている「告発という荷物」の重さを痛いほど感じました。

(下)日本共産党・江尻加那県議に聞く

原電は再稼働やめ 廃炉事業専念こそ

東海第2原発(茨城県東海村)の現状や今後の課題について、議会内外で奮闘してきた日本共産党の江尻加那県議に聞きました。

(茨城県・小池悦子)

記者会見で説明する江尻県議と大名美恵子東海村議(左から)=2023年10月16日、茨城県庁

東海第2原発は、1978年に運転開始し、東日本大震災後13年間休止中です。再稼働をめざす沸騰水型原発で一番古い原発です。原発から30キロ圏内14市町村の人口は全国最多の92万人。避難先は県内30市町村に収まらず、千葉、埼玉、群馬、栃木、福島にまで拡大し、宮城県も想定しています。

再稼働の事前了解権を県と東海村の他、日本原電に新安全協定を締結させた周辺5市(水戸・ひたちなか・日立・那珂・常陸太田)に拡大しています。これまで県内25市町村が再稼働反対の意見書や決議、4市町が趣旨採択をし、66%の自治体は再稼働ストップを表明しています。

議会の内外で

2021年3月18日の水戸地裁判決は、「実現可能な避難計画及びこの実行体制が整えられているには程遠く、防災体制は極めて不十分。複合災害を含めた検討がなされていない」などとして運転差し止めを言い渡しました。現在は東京高裁で審理が行われています。

その中で昨年9月、防潮堤工事(防潮堤の取水口部分である鋼製防護壁の地中連続壁基礎部分)に埋める鉄筋組み立ての工事管理者から、共産党に施工不良の内部告発がありました。

共産党は、告発の情報をもとに調査をすすめ、10月に記者会見を行って公表。その後も、市民団体の学習会や講演会でも講師を務めるなど、事実や情報を多くの人と共有するために議会内外で活動してきました。特に原電茨城事務所前(水戸市)での毎週の金曜日抗議行動では、連帯と学びがあり励まされています。

党議員の責務

この間、告発者との連絡を取り続けてきました。共産党に声を寄せてくれた、勇気ある告発に応えることは党議員の責務です。

今年2月、原電は基礎の補強と補修を行う方針を原子力規制委員会に提出しました。その後、規制委員会の公開審査会合が2回行われ、3月26日は「不具合の全容を示す」、「既工認との相違点」、「課題の整理と対応策」などの指摘を受けました。6月18日は「不備の全容が把握できない」、「防潮堤の構造体として期待できない」、「設計自体の抜本的な変更を検討」、「不備部分の建て直しも検討」などが求められました。

原電は、7月末の回答期日を守ることができず、7月26日に規制委員会と面談し「8月下旬の審査会合で説明することを目指して準備を進めている」と表明したとのことです。同日の茨城県知事の定例会見では、「この状況でいまだに工期を変えないのは地元に対して不誠実だ」とのコメントがありました。

今後も原電に対し調査や質問を繰り返し、現場視察実施を求めていきます。その結果を、さらに広く知らせていきます。

なぜ施工不良をおこしたのか。工期優先で施工品質をおろそかにし、現場の告発も聞き入れず、規制委員会現地調査官の監視もリポートチェックだけでした。こうした管理体制と企業体質に踏み込まず、施工不良を単なる「事象」として扱うなら、原発事故は繰り返されます。

原電が廃炉を決断できないなら、自治体がNOの声を上げる時です。原電は敦賀も東海も全て廃炉にして、廃炉事業に専念するべきです。

(おわり)

(「しんぶん赤旗」2024年8月20日~22日付より転載)

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