問われる子どもの学び 筑波大学名誉教授・つくば市前教育長 門脇厚司さんに聞く
新型コロナウイルスの影響で子どもたちの学びが問われています。「社会力」をテーマにあるべき教育の姿を提言してきた、筑波大学名誉教授で茨城県つくば市前教育長の門脇厚司さんに話を聞きました。
(茨城県・高橋誠一郎)
これまでの教育は、国の発展や経済成長に役立つ人間をどう育てるかが一番の目的になってきました。
子どもたちに同じ事を一斉に教えて、試験で選別する。学力テストは競争の典型だと思います。
今年は新型コロナウイルスの影響で中止になりましたが、来年行われるようであれば、つくば市は脱退すべきという方針を教育長退任の際に言い残してきました。
「社会力」が大切
私がめざすべき教育のあり方は、昨年10月につくば市が策定した『教育大綱』に盛り込みました。大切にしていることが二つあります。
一つは「善(よ)き生の実現能力」です。誰もが「この人生で良かった」と思える一生を送る能力をつけてあげる。自己実現を達成して、幸せな人生を送ることができる力を付けてあげるのが教育の一番の目的だと思います。
二つめは「社会力」です。簡単に言うと「人が人とつながって社会をつくる力」のことです。どんな人も自分だけの力で良い一生を送ることは不可能です。
誰もが自分の能力を他の人のために使ってあげる。お互いに恵み合う「互恵的協働社会」が実現できれば、誰にとっても良い社会になるのではないでしょうか。そのためにも「社会力」をつけることが大切です。
20人学級実現を
コロナ危機で、ようやく30人学級や少人数クラスにしようという議論が始まりました。でも1学級30人でも多過ぎるし、20人くらいまで減らさないと駄目です。
教育現場では先生の過労が大きな問題になっていますが、先生の数を今の2倍にすればさまざまな教育課題は一気に解消します。
ところが、日本の対GDP比の教育費支出はOECD加盟国で最低クラス。日本の教育行政は家庭におんぶに抱っこで、学力を上げるために子どもを学習塾に通わせたりと、家庭の財力の差がそのまま学力格差に現れてしまう。
これまでの教育行政を反省して、今こそ根本的に変える必要があります。
かどわき・あつし
1940年生まれ。筑波大学名誉教授。専攻は教育社会学。16年12月から19年12月まで茨城県つくば市教育長。
著書に『子どもの社会力』『社会力の時代へ~互恵的協働社会の再現に向けて』など多数。
(「しんぶん赤旗」2020年10月2日付より転載)