種苗法改定案見直し求める JA水戸組合長・「日本の種子を守る会」会長 八木岡努さんに聞く
安倍政権が今国会に提出している、種苗法改定案について見直しを求めてきた、JA水戸の組合長で「日本の種子(たね)を守る会」会長の八木岡努さんに聞きました。
(内田達朗)
自家増殖の一律禁止やめ 多様な農業と食文化守れ
代々、キャベツ、カリフラワーなどの栽培を続け、30年ほど前に父から経営継承してから、イチゴ栽培を始めました。
イチゴ栽培では、自家増殖が大きな役割を果たします。
県の試験場などが開発した種苗を、実費を支払って購入しています。
その「親株」から「子株」が生まれます。
そのなかから、うちの農場に合って、品質や出来のよいものを選んで栽培を進め、よいイチゴをつくってきました。
イチゴだけではなく、サツマイモ、サトウキビ、果樹、コメもそうです。
日本の各地でその土地の条件に合った作物が育苗され、生産が続けられ、多様な食文化がはぐくまれてきたのは、自家増殖の営みがあったからです。
生産基盤弱める
今回の改定案では、登録品種の自家増殖が原則禁止となります。
これにより、その土地にあった作物育成の営みが壊されてしまいかねません。
しかも自家増殖には、育成者(種苗の開発者)への許諾料の支払いが求められます。
購入し続けるか、許諾料を延々と支払い続けることになり、農家には重い負担になります。
すでに、民間企業の種苗は非常に高価です。
例えば、コメは、県など公的機関から買うときの8倍にもなるものもあります。
農家の力をそぎ、生産基盤を弱めてしまいます。すでに野菜の種はほとんどが外国産という状態です。
今でも低い自給率をさらに危うくしてしまいます。
政府は、「海外流出を止めるため」と言います。
育成者が努力し、お金をかけて開発したものの権利はしっかり守ることは大事です。
しかし、流出を防ぐには、その国で品種登録するしかないことは、農水省自身が言ってきたことです。
今でも増殖した種苗の持ち出しは違法です。それを止めるのが最も効果的です。
流出を止めるためと言って、国内の農家の自家増殖を一律禁止するのは、本末転倒ではないでしょうか。
登録品種増大も
また、「登録品種はごく一部で大半の一般品種は対象ではないから、心配ない」と言います。
しかし、2018年に主要農産物種子法が廃止され、都道府県の種子開発事業の根拠がなくなりました。
同時に制定された農業競争力強化支援法では、都道府県がもつ知見を海外企業も含む民間に開放するよう求めています。
これにより、メーカーが開発を進めていけば、登録品種が増大することが十分想定されます。
これまで、開発者の権利を重視する「植物の新品種の保護に関する条約」(UPOV)と、その権利を守りつつ遺伝資源の保全や利用などを定めた「食料および農業のための植物遺伝資源に関する条約」(ITPGR)の理念の間でバランスをとってきました。
今回の改定案は前者に傾いた内容だと感じています。
有機農業や伝統作物の生産は、自家増殖で成り立っています。また在来品種の保全にも欠かせません。
自家増殖の一律禁止をやめること、くわえて、在来品種の保全など多様な農業と食文化を守るよう訴えていきたい。
(「しんぶん赤旗」2020年5月31日付より転載)