クローズアップ 土地利用規制法案 世論と運動で廃案に 基地・原発抱える茨城県

自衛隊基地と原発の両方を抱える茨城県。自民・公明政権が今国会での成立を狙う土地利用規制法案が施行されれば、その影響は必至です。周辺住民の個人情報の収集など“人権侵害法案″と指摘される土地利用規制法案の懸念について、施設の周辺住民の声を聞きました。

(茨城県・高橋誠一郎)

“先住民”は私たち

土地利用規制法案では、米軍・自衛隊基地や原発などの「重要施設」について、周囲約1キロを「注視区域」、とりわけ重要とみなすものを「特別注視区域」に指定し、土地・建物の所有者の氏名や住所、国籍などの情報を収集。
「重要施設」や国境離島の「機能を阻害する行為」などがあれば、利用中止の勧告・命令ができるとしていますが、その基準は曖昧です。違反すれば2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金が科せられるとしています。

■権利の侵害

「あまりにも身勝手な法律でびっくりしている。個人の権利を侵害するあり得ない法律だ」―。そう語気を強めるのは、自宅が航空自衛隊百里基地(小美玉市)に隣接する梅沢優さん(71)です。

百里基地反対同盟の一員として、毎年開かれる「百里初午まつり」で、基地建設反対の「一坪運動」が展開された百里平和公園から自衛隊訓練の危険性と平和を発信してきました。

「『重要施設』の制限すらとっぱらわれる可能性がある。『機能を阻害する行為』とあるが、自公政権は憲法すら曲解する人たち。何でも『阻害行為』になる。やりたい放題だ」と梅沢さん。

法案は施設の周囲1キロとしますが、梅沢さん宅は基地に三方を囲まれ距離は0メートルです。

「私たちは基地よりも先に住んでいる。法案は個人の権利侵害だ。絶対に廃案にしなければならない」。

■まるで弾圧

日本で初めて商業用原子炉が稼働した東海村。日本原子力発電東海第2原発が立地する、東海村白方の川崎勝男さん(77)、篤子さん(68)=元日本共産党村議=夫妻を訪ねました。

勝男さんによると、原子炉建屋から1キロ圏内にはおよそ50世帯があり、川崎さん宅は原子炉建屋から直線で約960メートルの距離。川崎さん夫妻は東海第2原発の廃炉を訴え続けています。

篤子さんは、「法案は憲法改悪のもくろみと連動した動き。どんな主張をしようが自由なのに、住民を監視するものだ」。勝男さんは、「憲法違反の住民弾圧そのものだ。そのうちポスターも貼れなくなるのではないか」と危機感を募らせます。

勝男さんは、東海・東海第2原発の稼働前から先祖代々、東海村で暮らしてきました。「私たちの方が先住民で、あとから入ってきたのが原発です。民主主義の国でこんな法案が到底許されるはずはない。理解できない」。

憲法の土地利用規制法案 戦争のための権利侵害許さぬ 百里基地反対同盟 梅沢優さん

菅政権が強行を狙う米軍・自衛隊基地周辺住民を調査・監視し運動を規制する「土地利用規制法案」の危険性について、航空自衛隊百里基地の反対運動にとりくむ百里基地反対同盟の梅沢優さんに聞きました。

私たちは百里基地の反対運動を半世紀以上続けてきました。土地利用規制法で真っ先に狙われるのは、こうした住民運動であり、「自衛隊は憲法違反」の看板や監視塔の撤去ではないかと思います。

百里基地は戦争中、日本海軍の飛行場としてつくられ、終戦の日の8月15日の朝も8機の特攻機が飛び立ち1機も戻ってきませんでした。戦後、旧満州(中国東北部)からの引き揚げ者などが入植し、農地の開拓が進みますが、1956年に、自衛隊基地建設計画が持ち上がり、農民をはじめ住民が反対闘争を展開しました。

64年に結成された百里基地反対同盟は、基地内の土地を一坪ずつ買ってもらう「一坪運動」を呼びかけ、国は滑走路に並行する誘導路の土地の一部が買収できず「く」の字に曲がることになり、自衛隊は憲法違反だと訴える裁判闘争が31年間にわたりたたかわれました。この土地は百里平和公園として整備されて、毎年2月に「百里初午まつり」が開かれ、平和と基地のない日本をつくろうとアピールしています。

私たちが一坪地主運動で確立した旧日本海軍の射撃場跡の山は「9条の丘」と名付け、「自衛隊は憲法違反」の大きな看板が立てられ、「自衛隊明記」の改憲にノーをつきつけています。

法案は規制対象や範囲など法文上の限定がなく、政府のやりたい放題で国民の権利を侵害するなど、民主主義社会ではあってはならないことです。

戦争をするために個人の権利を侵害する法律は憲法9条と相いれません。絶対に許さないため、ひるまずたたかっていきたい。下に保障された居住の自由をはじめ財産権、プライバシー権を制限する違憲立法であることは明確です。世論と運動で廃案に追い込むことが求められます。

(「しんぶん赤旗」2021年6月10日付より転載)

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