洋上風力発電 進む町 高いポテンシャル カギは「住民合意」 注目の茨城・神栖市

気候変動の影響が各国で出る一方、国内の再生可能エネルギーの普及は立ち遅れています。
ポテンシャル(潜在的導入可能性)の高さが注目されている風力発電は、どうなっているのでしょうか。洋上風力発電の増設が進む茨城県神栖市(人口約9万5000人)を取材しました。

(手島陽子)

鹿島灘に面して細長く伸びる神栖市は、太平洋からの風に恵まれた地形です。
「日本三大砂丘のあった地域で、今も波崎砂丘があるため、海沿いに民家が少ないというところが風力発電に合っていると感じました」。

こう語るのは、関口まさじ日本共産党市議。これまで市議会で市営の風力発電の建設を提案してきました。
「残念ながら、市営発電所は実現しませんでしたが、その後、民間の風力発電施設が次々と建ちました」。

洋上15基、陸28基

2004年、14基の陸上風力発電施設が建設されたのが最初でした。現在43基あり、総出力7万8900kWの発電が可能。このうち洋上風力が15基、陸上が28基です。市内の風力発電設備だけで1億5400kWhの発電電力量があり、市の全世帯(約4万3000世帯)をおおむね賄える、4万2880世帯分に相当するといいます。

市の企画部政策企画課の担当者は、「工業地帯なので送電線網が整備されており、立地に適していたといえます」。年間1億1000万円の税収増になり、ドラマや映画の撮影に使われた景観が観光資源にもなりました。

一方、「低周波音や風車の影にたいする苦情も年数件ほどある」とも。「近くに住宅がないので、数は少ないですが、どこでも建てていいものではないんです」。

05年にできた市の要綱では、(1)民家からの距離は施設の高さの4倍以上とする(2)地域住民等の合意形成―などを定めました。「風力発電が地域のシンボルとなったのは、住民に迷惑をかけないようにしてきた企業努力も大きい」と市側は見ています。

地元企業が設置

株式会社ウィンド・パワー・グループ(小松崎衛代表)は、10年に洋上風力第1号を設置した地元企業です。市内の洋上風力15基をはじめ、県内で風力発電を運営しています。

「風力発電の1基当たりのポテンシャルは2,000kW。太陽光パネルを球場1個分敷き詰めた発電能力になります。連系線(地域をまたぐ送電線)を整備すれば、北海道など陸上にもまだポテンシャルがあります」。こう話すのは専務の小松崎忍さん。

同社は鹿島灘の沖合の港湾区域に、27年までに19基の洋上風力(総出力16万kW)を建設予定。漁業関係者には何度も説明を行ってきました。「設置の際に付近の海が濁ってご迷惑をかけます。これまでも近隣住民には、地元企業だったからこそ受け入れてもらえた側面があると思います」。

陸上に比べて、洋上風力はコストがかかり、海外製なので円安下での建設は“挑戦”ですが、「エネルギーを国内でつくることは大事な課題です」。

魚増える事例も

はさき漁業協同組合も05年以降、製氷工場の付帯設備として風力発電を運転しています。「洋上風力の建設では、何度も話し合いがあった」と総務次長の小林寛史さん。「漁協が建てた事例は全国で3カ所だけ。初期投資にお金がかかるなど、さまざまな制限があるので…」。

みずから風力発電のメンテナンスも行う小林さん。洋上風力についても情報収集してきました。「漁業への影響は、建ててみないと分からないんです。底部が漁礁となって魚が増えたという事例もあれば、漁獲高が減ったかもしれないという主張もあります。潮の流れが変わる可能性もあります」。

はさき漁協が2基目の建設を決めたのは、福島原発事故後でした。「3・11以降、しばらく船を出せませんでした。ようやく漁ができても、放射線量が高くて出荷できなかった。2年、3年と検査し続けて、ようやく魚を売ることができるようになりました」。経営難を乗り越えるために建てた風車。小林さんはつぶやきます。「3・11だけは繰り返したくない…」。

町づくりと一体で
京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座特任教授 安田陽さん

風力発電は10年前に技術が確立しており、日本の認識は世界から20年遅れていると感じます。世界とは逆の非科学的な言説がまかり通っています。

海に囲まれ、洋上風力のポテンシャルが高い日本で洋上風車が進むことはよいことですが、相対的にコストの安い陸上風力の拡大も重要です。

また、海底に固定する着床式だけでなく、浮体式洋上風力の開発も長崎県五島列島で進んでいます。量産効果でコストを下げるのは、技術的課題でなく、高い再エネ目標設定が先決です。

再エネの設置では、その土地が適地かどうかを区分けする「ゾーニング」を、地方行政が行うことが大切です。住民が事前に合意形成に参加し、「手続き上の正義」があるかどうかも大切です。

発電所建設で若者が移住してくる、観光資源になるなど、地域住民にメリットがあることも大切です。デンマークでは、地域の人が風車に投資をし、発電の利潤が回ってくる「風車債」を義務付けています。

電気を必要とする産業を誘致して、町おこしと一体に風力発電を建設するという方法もあります。再エネの時代にふさわしい町づくりプランが持てるかどうか。自治体の知恵の見せどころです。

(「しんぶん赤旗」2022年10月10日付より転載)

おすすめ