ウクライナ危機から考える 原発やめる決断のとき 環境経済研究所代表 上岡直見さんに聞く

ロシアによるウクライナ国内の原発攻撃は、原子力施設が有事に安全上のリスクになるばかりか、人類への脅威になる危険性を浮き彫りにしています。
日本国内にも原発をはじめ核関連施設が立地しています。
ウクライナ危機から原子力施設のリスクをどう見るべきか─。環境経済研究所代表の上岡直見さんに聞きました。

(茨城県・高橋誠一郎)

─ロシア軍による原発の制圧をどう見ますか。

核施設への攻撃は今回のウクライナ危機が初めてではありません。
1981年にイスラエル空軍がイラクの核施設を爆撃し、日本の外務省も84年に原発への武力攻撃の被害シミュレーションを行いました。
今回のロシアの核施設の攻撃は、戦争をはじめ核施設への攻撃を禁じた国際的な合意を破る行為で許されるものではありません。

想定される危険

─日本国内の核施設で想定される具体的な危険はどのようなものでしょうか。

原子炉本体よりもぜい弱で危険なのが使用済み核燃料プールや再処理施設です。原子炉の場合は圧力容器や格納容器、建屋がありますが、プールは冷却水が抜けると核燃料がむき出しになり、福島原発事故のようなメルトダウン(燃料溶融)が発生します。

茨城県東海村には、高レベル放射性廃液を貯蔵し、ガラス固化処理する「東海再処理施設」(日本原子力研究開発機構)があります。
ここで武力攻撃などが起きて廃液が漏れ出せば、周囲は即死レベルの高放射線量となり人は近づけないでしょう。

チェルノブイリ原発事故後にウクライナで「チェルノブイリ基準」が採択されました。これは年間の予想被ばく量を元に立ち入り禁止、強制移住、移住権利の発生の3段階に分ける基準です。

これを元に東海村の再処理施設で事故が起きた際の被害シミュレーションをしてみると、施設周辺ばかりか首都圏を中心に死者が多数発生し、避難せざるを得ない地域が広範囲に及ぶ結果になりました。

福島原発事故では、炉内の核分裂生成物の1~3%が放出されただけで、今なお帰還できない区域があります。
それを考えれば、原子炉の使用済み核燃料がそのまま保管されている燃料プールが崩壊すれば重大な被害をもたらすことは容易に想像できます。

1次エネの2%

―原子力規制委員会も原発は紛争での武力攻撃を想定していないとしています。ウクライナ危機をふまえても、原発再稼働は到底認められないのではないでしょうか。

ウクライナ危機を契機に、原発のリスクを新たに認識したはずです。ウクライナは電力の4~5割を原子力に依存する一方で、日本では1次エネルギー供給に占める原子力の割合は20年度で2%しかありません。

自民党は天然ガスなどの価格高騰を理由に原発再稼働を求めていますが、数基の原発を再稼働したところで、全体のエネルギーバランスへの寄与は限られたものです。使用済み核燃料の乾式貯蔵を進めると同時に、原発はやめると判断すべき時だと思います。

かみおか・なおみ

1953年生まれ。早稲田大学大学院修了後、化学プラントの設計・安全性評価に従事。環境経済研究所代表。著書に『原発避難はできるか』など。

(「しんぶん赤旗」2022年3月26日付より転載)

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