東海第2再稼働 “害”だけ 日本科学者会議原子力問題研究委員会 岩井孝委員長に聞く
日本原子力発電は運転開始から42年が経過する東海第2原発(茨城県東海村)について、来年12月の完了をめどに再稼働工事を進めています。東海第2原発再稼働の危険性について、日本科学者会議原子力問題研究委員会の岩井孝委員長に聞きました。
(茨城県・高橋誠一郎)
不十分な防火対策 無理な避難計画
千葉県東庄町に住んでいます。東海村のJCO臨界事故(1999年)から、県内を中心に全国各地で原発の危険性について講演してきました。
千葉県で東海第2に一番近いのは香取市で約70キロと、東京電力福島第1原発で言えば、福島市までの距離とほぼ同じです。銚子市からは東海第2の煙突も見え、重大事故が起きれば遮る山もないので千葉県内は放射能が直撃します。
福島原発事故(2011年)の時は銚子のスズキや香取市の野菜に一時出荷制限がかかりました。千葉県は東海第2が動くことに利害の“利”はなく“害”だけ受けることになります。銚子市や成田市、多古町などの議会で東海第2再稼働への反対決議が上がり、署名運動も始まり運動が広がりつつあります。
漏電火災と同じ
東海第2には燃えやすいケーブルが大部分残ったままです。原子力規制委員会は当初、ケーブルは全て燃えにくいものに取り換えることを指示していました。壁の中を貫通したり複雑に絡み合っていて全てを取り換えることは困難なので、「規制委も動かさないつもりなのだな」と思いました。しかしその後、防火シートでの対応で「合格」を出してしまいました。
ケーブル自体がショートすれば結果的に火災になります。場合によっては周りのケーブルに飛び火し延焼の可能性もあります。一般家庭の漏電火災と同じでとても危険です。
東海第2の30キロ圏内には全国の原発で最多となる94万人が居住しており、茨城県は福島、栃木、群馬、千葉各県への広域避難計画を策定することになっています。茨城県の大井川和彦知事や周辺首長は「実効性ある避難計画ができない限り再稼働は認められない」としていますが、裏を返せば「計画ができれば認める」ということ。
ですから送り出す側も受け入れる側も、実効性ある避難計画ができるのか、できたのかという議論をしっかりする必要があります。県が想定する原則自家用車での避難も、学校にいる子どもはどうするのか、車で逃げられない人はどうするのかなど突き詰めるべきです。真面目にやればやるほど、実効性ある計画は無理だということになります。
東日本大震災の際、千葉県は停電や断水を経験しました。茨城県沖で大地震が起き、しかも東海第2で事故が起きればもっとひどいことになります。
人ごとではない
講演では、地震や津波は防げなくても、原発事故は再稼働しなければ防げるので「『動かさないでくれ』という声を上げましょう」と言っています。
再稼働問題は人ごとではない―。「事故の被害者になる」ということと、「避難住民を受け入れる」ことの二重の意味で人ごとではないということです。
いわい・たかし
1956年千葉県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。日本原子力研究開発機構で高速増殖炉用プルトニウム燃料の研究に従事。現在、日本科学者会議原子力問題研究委員会委員長。近著に『福島第一原発事故10年の再検証』(共著、あけび書房)
(「しんぶん赤旗」2021年3月1日付より転載)