大洗・原子力機構 5人被ばく事故

使用目的失った核燃料物質 行き場・管理方法も未定

事故が起こったのは、6月6日の午前。同センターの燃料研究棟で、プルトニウムとウランの酸化物が入った金属貯蔵容器のふたを開けようとしたところ、密封されていた2重のビニール袋が破裂して、中のプルトニウムなどが飛散。鼻と口だけをおおう半面マスクを着けた作業員5人が被ばくしたのです。
機構は当初、体外から放射線を測定し内部被ばくを測る肺モニターの結果、容器のふたを開けようとした50代の職員が2万2000ベクレルのプルトニウム239が検出されたと発表。翌日、量子科学技術研究開発機構の放射線医学総合研究所に5人を移送し、肺モニターで再測定すると、プルトニウムについては全員、検出限界(約5000~1万ベクレル)以下でした。
除染の不十分さが推測されましたが、その後の原子力規制委員会の立ち入り検査で、同施設のシャワーが故障していたため、隣接した建屋から給水し、5人はホースで体を洗ったことが判明。機構は立ち入り検査まで、シャワーの故障を報告していませんでした。
その後、放医研が尿などから被ばく量を推計した結果、作業員が体内に取り込んだ放射性物質による今後50年間の被ばくは、最も多い人が100~200ミリシーベルト、2人が10~50ミリシーベルト、他の2人が10ミリシーベルト未満となりました。最も多い人はがんの発生リスクが0・5%高まるとされています。

加熱せずに貯蔵

袋が破裂した原因について機構は、袋の中の不純物が放射線で分解し、ガスが発生。長期に保存していたため、圧力が高まったと推定しています。
機構によれば、破裂した袋の中身は、ウランとプルトニウムの混合酸化物。X線回析実験で使った試料ということが分かっています。
実験の際、粉末の試料をエポキシ樹脂で固定して実施。試料は、貯蔵前に加熱して酸化物にする処理がされ、樹脂は分解されたと考えられます。しかし、一部の試料は加熱せずに貯蔵されたことが、退職した職員などの聞き取りなどから分かっています。
機構は現在、樹脂が放射線で分解する現象やビニール袋が破裂する現象の模擬実験で検証作業を続けています。

保安規定違反も

今回、作業に使用したのが、解放型の作業台である「フード」ではなく、グローブボックスとよばれる密封型の作業台なら、被ばくは防がれたと考えられます。
同研究棟にはグローブボックスが36台ありますが使われませんでした。原子力機構は、計画では袋を開けることはなく密封した核燃料物質を扱うので、フードで作業しても問題ないと判断していたと説明しています。
一方、規制委はこの袋について「長期的な閉じ込めを担保し得るとは言い難い」と指摘。貯蔵容器のふたを開けることが、「非密封で核燃料物質を扱うことに相当すると考えられる」としています。破裂した試料は、26年間開封されずに貯蔵されたとみられています。
また規制委は、基準を超える被ばくの恐れがある作業で事前に作成されるべき届けが、未作成だったことなど保安規定違反の可能性が高いと指摘しています。

施設廃止困難に

事故のあった燃料研究棟は1977年からプルトニウムを使った試験などを行い、2013年に廃止方針を決定。15年には試験を終了しています。機構の計画では、20年に廃止措置に着手する予定となっていますが、80個の容器に貯蔵された核燃料物質などの行き場は決まっていません。
機構全体では、燃料研究棟を含め44施設の廃止を決めていますが、多くの施設で核燃料物質の行き場は未定です。廃棄することもできないため、今後どのように貯蔵、管理していくのか、大きな問題です。
規制委の更田豊志委員長代理は、事故に関係して「あれだけ多くの施設の廃止が、スムーズに進むと思えない。多くの者が見えないふりをして後送りにしてきた結果だろう。問題を更に難しくしている」と指摘しています。
機構によれば、燃料研究棟の核燃料物質の行き先は、「(所有している)研究開発部門が主体的に検討している」といいます。ただ、具体的な担当がどこか問い合わせると”時間をいただきたい”と答えています。
機構の元研究員岩井孝氏は、「個々の現場任せでは、解決できない問題。今後廃止される施設には線量が高い照射済みの試料もある。機構として必要な施設や人材を示し、国や文科省に求めていかないと、施設の廃止も進まないだろう」と指摘しています。
(「しんぶん赤旗」2017年7月17日付より転載)

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