常総水害 国に賠償命令 河川管理一部で不備 水戸地裁 「優れた判断」と原告側
2015年9月に発生した関東・東北豪雨で、鬼怒川の堤防が決壊したのは国の河川管理に不備があったためだとして、茨城県常総市の住民ら31人と1法人が国に損害賠償を求めた裁判で、水戸地裁(阿部雅彦裁判長)は7月22日、国の責任を認め、計約3,928万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
住民らは18年8月に提訴。主な争点は、2地区について国の河川管理と改修計画が合理的かどうか。
若宮戸地区について、国が河川管理区域の指定を怠ったために、堤防の役割を果たしていた砂丘林が事業者に掘削され、氾濫が生じたと主張。上三坂地区の堤防高が低く危険だったのに、整備を後回しにした国の責任を問いました。
判決は、若宮戸地区の砂丘林について、「河川区域に指定するべき義務があったのに、これを怠った」と断罪。国に瑕疵があったとして、住民9人について賠償を認めました。
上三坂地区の住民については、下流から優先させて堤防を整備する国の改修計画に「格別不合理とまではいえない」としました。
原告団の片倉一美共同代表は、「国の瑕疵を認めてくれたのは歴史的な判決だ」、原告代理人の只野靖弁護士は、「水害は人災だということと、一部かもしれないが瑕疵が認められた。優れた判断だ」と評価しました。
当時、台風18号などの影響で、市内の約3分の1にあたる40平方キロメートルが浸水。46人が重軽傷を負い、13人が災害関連死に認定されています。
常総水害 国に賠償命令 “自宅の半壊 国に責任” 原告ら喜びの声
「国は河川管理区域に指定すべきだったという主張を裁判所に認めていただいた」。茨城県常総市若宮戸地区で花の栽培などに携わる、高橋敏明さん(68)は報告集会で喜びを口にしました。
提訴から約4年の常総水害訴訟―。発災当時、あふれ出た鬼怒川の水は濁流となり、高橋さん宅や造園ハウスを襲いました。「自宅の半壊が認められたのは良かった。若宮戸地区については、主張した通りの結果が得られたと思う」。
原告団らが「勝訴」の垂れ幕を掲げると、集まった支援者などから大きな拍手が沸き起こりました。
報告集会で原告団の片倉一美代表は、「水害訴訟は長く勝てない“冬の時代”が続いたが、私たちの訴えが少しでも実り、良かったと思う」と語りました。
判決は若宮戸地区について国の賠償を認めたものの、上三坂地区については認めなかったため、上三坂地区の原告は控訴する方針です。
解説 常総水害 国に賠償命令 管理責任検証へ道
2015年9月の関東・東北豪雨にともなう常総水害訴訟で、水戸地裁は茨城県常総市の一部住民について、国に賠償を求める判決を出しました。
若宮戸地区で自然堤防の役割を果たしていた砂丘林を河川管理区域に指定していなかったとして国の責任を認め、若宮戸地区に住む9人に対し、3927万9897円の支払いを命じるというもの。
裁判は、住民・国側ともに1984年の大東水害訴訟最高裁判決に基づいて争いました。最高裁判決は、改修中の河川で改修計画に不合理な点がなければ、行政の管理責任は問わないという内容です。
常総水害訴訟で、原告は上三坂地区については、氾濫の危険があったにもかかわらず、堤防の整備を後回しにしたとして計画をめぐる国側の責任を追及しました。水戸地裁は、「改修計画が格別不合理であったとまではいえない」として、大東水害訴訟最高裁判決に基づき、上三坂地区の賠償までは認めませんでした。
大東水害訴訟判決以来、全国各地でたたかわれてきた水害訴訟は住民の訴えが認められない「冬の時代」が続いてきましたが、水戸地裁判決は国の河川管理が適切に行われているか、責任を検証する上で重要な判決になります。原告代理人の只野靖弁護士は、「判決を受け、他の水害の事例について、それぞれ国の河川管理のまずさが指摘できる」としています。
(茨城県・高橋誠一郎)
(「しんぶん赤旗」2022年7月23日付より転載)