元日本医師会会長 原中勝征さんに聞く コロナ感染拡大 国は過去の経験生かせず

新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。これまでの政府のコロナ対応や医療現場の状況について、元日本医師会会長の原中勝征さんに聞きました。

(茨城県・高橋誠一郎)

過去の教訓生かされず

日本で一番欠如していたのは、過去に世界で大流行したスペイン風邪(1918~20年)やアジア風邪(57~58年)、香港風邪(68~69年)の教訓が生かされなかったことです。

これらはインフルエンザウイルスによるパンデミックでしたが、共通しているのは、人の流れを止めるなどの予防策が解かれた後に感染者が急増したということです。

人の接触回避がウイルス感染を防ぐ基本です。人の動きを抑えなければならないものを、命よりも経済優先で「Go To トラベル」を推進しましたが、このために感染が相当広がりました。

また、昨年初期のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応は間違いでした。無症状者がいる可能性が大いにあるのに、下船を認めたのは大きなミスでした。

補償しっかりと

治療薬の完成や一日も早い安全なワクチン接種が待たれますが、それまでは感染しない、させないことに注意する必要があります。密閉・密集・密接の「3密」回避はもちろん、マスクや手洗いの大切さを改めて認識することが重要です。

飲食店などを中心に感染拡大が広がりました。営業をストップさせるかわりに補償金を十分に出すなど、政府は補償をしっかりする必要があります。

またPCR検査なども海外では検査数が増えていて、結果も早く出ています。日本のような人口密度が非常に高く経済力がある国で、まん延予防という観点での検査拡大が必要でした。

すでに医療崩壊

コロナ禍で病院も利益が出ず、経営も厳しくなっています。

患者が感染を恐れ受診を控える中、「高血圧はどうなっているか」「糖尿病の治療はうまくいっているか」など患者の健康が気になります。2~3カ月分の薬をまとめて送るようになっています。患者をこまめに診察して薬を調整することが難しくなっています。

コロナ患者を受け入れている医療現場では、重症者の人工呼吸器などへの対応から看護師が不足するなどの問題が出ています。もともと不足していた中でウイルス感染が広がり、救急患者の受け入れができなくなるケースも出ています。そのこと一つを見てもすでに医療崩壊が起きていることになるわけです。

コロナ禍をきっかけに将来の病院のあり方を考える時期が来ると思います。今は公立・公的病院の統廃合計画が問題になっています。公の病院は税金でつくられているわけですから、国民の誰もが平等に医療が受けられる環境をつくらなければなりません。公的病院は時代に合わせ、現在の高度医療を続けながら、コロナをはじめインフルエンザ等の重症例を扱う隔離病棟を付設することも必要だと思います。

はらなか・かつゆき
1940年生まれ。元日本医師会会長(2010~12年)。現在、医療法人杏仁会大圃病院理事長

(「しんぶん赤旗」2021年2月3日付より転載)

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