県知事回答に対する「水問題を考える市民連絡会」の見解(2012年9月)

県知事回答に対する当会の見解

平成24年9月20日
茨城県の水問題を考える市民連絡会
代表:近藤欣子
事務局長:神原禮二

私たちは本年予定されていた筈の「いばらき水のマスタープラン改定」が先送りされたことを受け、5月25日、橋本茨城県知事に要望書、磯崎県議会議長に陳情書を提出しました。
両書面の趣旨は、本年4月出された「茨城県総合計画」に記された将来人口の大幅な減少を「新・水のマスタープラン」に反映させるよう求めるものでした。
6月13日、知事からの回答書が出されました。
曰く、
★マスタープランの改訂は、国のダム検証の結果を見極めた上で検討する。
★霞ヶ浦導水、八ッ場ダムなど水源開発は茨城県にとって治水・利水共に必要である。
★水道料金は市町村等の水道事業者が決めるもので、県として回答する立場でない。
どれもが、これまでの主張を繰り返すのみで、私たちの要望を切って捨てました。
7月27日、回答の根拠を求め知事宛てに「公開質問書」を提出しました。公開としたのは、これまで県当局の垂れ流す情報のみを受けていた県民に、当会と県当局のやりとりの中から真実を掴み取ってもらいたいと願ったからに他なりません。
8月31日、回答が出ました。想定どおり質問の核心には触れず、再びこれまでの主張を繰り返すものでした。明らかになったのは、茨城県の治水・利水行政に道理がないことです。
いささか長くなりますが、質問と回答の全文と当会の見解を記しました。広く市民と共に考えて行きたいと願っています。
[質問1]
要望書には逐条的に申し上げておりませんが質問いたします。
平成23年4月には改訂前の「茨城県総合計画」が発表されています。そこでの人口予測では、現行の「いばらき水のマスタープラン」の達成年度人口(2020年)297万人を12万人も下回る285万人と想定しています。
さらに2035年には245~255万人まで減少するとしています。こうした状況を自ら把握しながら、何故、八ッ場ダム検証の場に現行マスタープランをそのまま「長期水需要計画」として提出されたのですか。
[回答]
国から長期水需給計画の提出を求められたため、本県が学識経験者の意見を聴くなどして平成19年3月に策定した現行の長期水需給計画である「いばらき水のマスタープラン」を提供しております。(企画部:水・土地計画課)
[見解]
この回答は何も答えていません。
いかに学識経験者に諮っても、そこで審議された「マスタープラン」は、前提となる人口想定が大幅に減少することで既に破たんしています。答えるべきは、大幅な人口減少を自ら掌握しながら、なぜ現行のマスタープランを提出したのか、ということです。
ことさらに“学識経験者”を持ちだしたのは「市井の民は黙っていろ」とでもいうのでしょうか。それとも学識経験者に責任を押し付けているのでしょうか。
[質問2]
私たちは、「平成25年度に実施が予想される新・いばらき水のマスタープランの策定にあたっては、水需要の実績と人口減少を真正面から捉え、将来の水需給を現状より減少する計画にすること」と要望いたしました。
回答は、現在、国が行っておりますダム事業の検証結果などを見極めた上で、「いばらき水のマスタープラン」の改訂を行うかどうかを検討してまいりたいと考えておりますとしています。以下ふたつ質問をいたします。
[質問2-1]
水需給計画とは、将来に亘る水需要を予測して、それを満たすべく供給計画を立て「水需給計画」とするのではありませんか。しかるに供給が決まらない限り水需給計画が立てられないとは、水源開発ありきの水需給計画になりませんか。
[質問2-2]
「いばらき水のマスタープラン」の改訂を行うかどうか検討してまいりたいとは、これ程の水需要の減少が予測されながら、改訂しないということもあるのですか。
[回答]2-1,2-2,3-1に共通
当該計画の改定につきましては、現在、国が行っているダム事業の検証結果等を見極めた上で、改訂が必要かどうか検討して参ります。
なお、個別の水源開発への参画については、各水道事業者が給水区域に責任を負う立場から、各々の将来計画や経営方針にしたがって、長期的な視野に立って決定しているものであります。(企画部:水・土地計画課)
[見解]2-1,2-2の回答について
回答は前回回答の鸚鵡返しでしかありません。先ず水需要予測があり、それに対応して供給計画を立て、必要なら水源開発をする。が順番です。国が行っている検証を待つとは県自身に判断能力がないこと、水源開発ありきの水需給計画であることを認めたものです。
また国の検証のために提出したデータは既に破たんしていることも指摘しておきます 。
[質問3]
私たちは、「上記を踏まえ、無用となる霞ヶ浦導水事業、八ッ場ダム、思川開発、湯西川ダムから撤退すること」と要望いたしました。
回答は、それぞれの事業については、利水・治水の両面から必要であると考えておりますとしています。以下質問いたします。
[質問3-1]
要望書に記しましたように水需要実績、将来人口の激減を踏まえた回答とは思えません。それでもなお水源開発が必要とお考えなら、合理的な回答=将来人口の激減があってもなお水源開発を必要とする「水需要予測」をお示しください。
[回答]上記回答と一部重複
なお、個別の水源開発への参画については、各水道事業者が給水区域に責任を負う立場から、各々の将来計画や経営方針にしたがって、長期的な視野に立って決定しているものであります。(企画部:水・土地計画課)
[見解]
各水道事業者の判断といいますが、茨城県がこれ程の人口減少を把握しているならば、水道事業者に将来計画の見直しを促し、それを待って国の求める「長期水需給計画」を提出するのが筋です。例え時間がかかっても拙速は赦されません。誤った計画を出すことは、国にも県民にも損害を与えるからです。それが長期的視野に立つということであり、自立した自治体の在り方でしょう。
[質問3-2]
治水について質問いたします。それぞれのダムの治水効果をお訊ねしたいところですが、八ッ場ダムに代えて質問いたします。
八ッ場ダムの治水効果は先の八ッ場ダム検証の場では、八斗島地点の効果は1,176m3/秒としています。その後の情報公開では下流に行くに従い「河道貯留など」により治水効果は減衰し、取手より下流では1/10以下になるとしています。同計算では実際に古河地点、取手地点、潮来地点で毎秒何m3の治水効果になるか、水位は何mm下がるか、計算式を添えてお答えください。
[回答]
県は、計算のためのデータ等を所有していないため、お答えすることは困難です。(土木部:河川課)
[見解]
八ッ場ダムによる茨城県内の「洪水削減効果」は、茨城県が治水上、八ッ場ダムを必要とするか否かを判断する上で最重要データです。それを把握せずに「八ッ場ダムは茨城県とって必要」とは何を根拠にしているのか。河川法63条1項に規定する「著しい利益」を、何をもって判断したのか。当事者能力の無さが明かされました。
[質問3-3]
河口132km地点(古河市)は、関東地方整備局の試算では1/5洪水(5年に1度の洪水)で破堤するとしています。過去60年間に同地点は何回破堤しましたか。この試算を受けて県はいかなる対策を講じていますか。
[回答]
昭和27年以降の最近60年間、利根川の河口から132km地点において、破堤はないと認識しております。「関東地方整備局の試算では1/5洪水で破堤する」との指摘については、その内容が不明でありますので「試算を受けて」の県の対策についてはお答えが困難ですが、利根川等の洪水対策として、県は国、関係市町村と連携して水防活動に取り組んでおります。(土木部:河川課)
[見解]
「利根川河口132km地点は昭和27年以降一度も破堤していない」は、茨城県の公式見解として承った。同様に政府の公式見解では「昭和26年以降の60年間、利根川本川の八斗島下流部及び江戸川本川において破堤した場所はない」としています。
しかし、八ッ場ダム検証の場では、八ッ場ダムの費用便益の根拠になる「洪水想定被害額」は、河口132km地点の破堤を含め年平均4820億円としています。つまり被害額ゼロを4820億円としています。検証の場に同席し説明を受けた茨城県は、この虚偽を承知の上で「八ッ場ダムは必要」と回答したのでしょう。治水負担をする自治体の体をなしていません。
[質問3-4]
去る7月11日の共同運動と県ご担当との話し合いの席上、八ッ場ダム検証の場で用いられた河川整備計画相当の治水安全度1/70~1/80、目標流量17,000m3/秒は法的根拠がないと回答されました。また八ッ場ダム検証検討および検証結果=「八ッ場ダムは継続が妥当」は、茨城県として同意してないとも回答されました。
後日、回答されたご担当に回答は県の公式見解と受け止めてよいか」と確認したところ「公式見解と受け止めてよい」と答えられました。改めて問います。両者は県の公式見解として受けとめて宜しいですか。
[回答]
八ッ場ダム検証は国が実施したことであり、今回の法的根拠については、本県は掌握しておりません。
「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場規約」の第4条に示されているとおり、この検討の場は、検討主体が検討内容の説明を行い、県は検討主体に対して見解を述べる場となっておりますが、検証の手続きの中で、県として、総事業費や工期について現行の基本計画どおりとすることを求めた上で、治水、利水の両面から必要な事業である旨を回答しており、国の「事業継続が妥当である。」との対応方針(案)については、妥当なものであると判断しています。
ただし、最終的な国の対応方針決定以降も、総事業費や工期については、現行の基本計画どおりとすることを、引き続き、国に求めて参ります。(企画部:水・土地計画課)
[見解]
1. 質問は、検証の場の法的根拠ではなく、八ッ場ダム検証における治水安全度、目標流量に法的根拠はあるか、と問うているのです。
7月に行われた共同運動との話し合いの場では「国土交通省関東地方整備局によりますと,利根川河川整備計画における治水対策に係る目標流量につきましては,平成18年から平成20年までの間,様々な検討を行いましたが,目標流量の案としての流量を提示するまでには至っていない,とのことです」との回答書をもとに質疑しました。
席上、この回答からは「法的根拠はないとしか読めないが如何か」と問うたところ「法的根拠はない」と返答された。つまり、法的根拠のない治水安全度、目標流量をもとに検討し「八ッ場ダムは継続が妥当」としたのです。
2. 総事業費や工期について現行の基本計画どおりとすることを求めた上で、治水、利水とも必要な事業である旨回答したとありますが、これまでの回答からは治水、利水とも必要とするに足るデータは何も持ち合わせてないことは明らかです。何を基に必要と判断したのか。ただ国の言いなりになっているのでしょう。
[質問4]
私たちは、「水源開発、およびそれに伴う浄水場など給水設備の増強をとりやめ、首都圏で最も高い水道料金の引き下げを図ること」と要望いたしました。
回答は、企業局の水道料金は、施設整備のための借入金の償還や維持管理費、また今後の施設改築等の費用を考えながら、長期的な展望に立って設定しております。
企業局の水道料金については、企業債の償還や施設改築事業などに要する費用を勘案しながら定期的に見直しを行っているところですが、今後も、適切な料金を設定してまいりたいと考えております。
市町村の水道料金の引き下げについては、水道事業を運営する市町村等が判断することであり、県として回答する立場ではないと考えておりますとしています。
以下質問いたします。
[質問4-1]
企業局の水道料金が長期的展望に立っておられるなら、ここ10数年の水需要実績の減少傾向、将来人口の急減をベースにお考えになれば、自ずと水源開発の見直し、撤退を図るべきではありませんか。
[回答]
県企業局では、市町村等の各水道事業者が必要とする水道用水を供給するために必要な水源開発に参画しております。(企業局業務課)
[質問4-2]
借入金の返済、企業債の償還、施設の維持管理費・減価償却などを考えれば、過剰な水源開発や浄水場などの増強を中止させ身軽になるべきではありませんか。
[回答]
県企業局では、基幹的なライフラインである水道用水を供給するために必要な施設の維持管理や改築事業などを行う必要があると考えております。(企業局業務課)
[質問4-3]
水道料金が市町村の裁量であることは確かですが、本年4月、県南の首長は再び連名で「水道供給料金の引き下げ」要望書を県知事宛てに提出いたしました。前回は県西、県中央も提出いたしましたが、今回を含め、どの要望書も「水道供給料金の引き下げ」を表題にしていますが、内容は水需要の減少と将来人口の減少に苦慮していることは明らかです。要望書の本意は「過剰な供給契約の見直し」と読むべきでしょう。
前回の要望書提出の折、企業局幹部が「そんなに供給料金の引き下げを求めるなら、供給契約の見直しを求めればいいのだ。我々は市町村の要望を満たすために水源開発をしている。水源開発をすればその維持費・減価償却費がかかるのだ」と語りました。図らずも真相を吐露しました。
茨城県の水道料金が高いのは、水源開発費用、それに伴う浄水場などの増強費用、維持管理費、減価償却費が嵩み、県の水道料供給料金が高くなり、結果として市町村などの水道料金が高いのではありませんか。つまり「責任引取り制」が元凶だと思いませんか。
[回答]
市町村等の水道料金については、水道事業を運営する市町村が判断することと承知しております。県企業局の水道料金の設定にあたりましては、水道施設等の維持管理費や、施設設備のための借入金の償還、また今後も安定的に水道用水を供給するための施設改築等の費用を考慮しながら決定しております。(企業局業務課)
[見解]4-1,2,3の回答をまとめて
これも鸚鵡返しでしかありません。急激な人口減少は一時的なものでなく50年、100年と続くものです。本年4月に出された「茨城県総合計画」の第1章第1項「時代の潮流」は次のように記しています。
我が国は、世界に類を見ない急激な少子高齢化のもとで、今後、本格的な人口減少社会を迎えることになります。
人口減少や急速な高齢化の進展は、国内需要や労働力人口の減少などによる経済規模の縮小、地域活力の低下や高齢者単独世帯の増加、さらには、国や地方公共団体の財政状況の悪化など多方面にわたり影響を及ぼすことが強く懸念されています。
これは茨城県の基本認識でしょう。水需要は人口の減少を端的に反映するものです。自ら人口減少を掌握し、その影響を強く懸念しながら、これまでの拡大路線を顧みることすらせず「今後も安定的に水道用水を供給するため…」とお題目を繰り返すのは、自ら当事者能力を失っていることを語るに他ならなりません。以下指摘します。
1. 市町村等の水道事業者が必要とする水道用水を供給するために水源開発に参加しているとしていますが「水道用水を広域的かつ安定的に供給するため、順次県営の水道用水供給事業の統合を推進します」と基本方針を定め、市町村の所有する水源を切り捨てさせている企業局が、あたかも市町村の水道事業者の言いなりになっているかに言を弄するは不誠実の極みと言えるでしょう。
2. 水道法2条の2第1項は、地方公共団体に対して「水道事業及び水道用水供給事業を経営するに当たっては、その適正かつ能率的な運営に努める」ことを義務付けています。また、最高裁判決(平成11年1月21日)は、上記の遂行に当たっては「最小の経費で最大の効果を挙げるよう努めることも要求されている」としています。人口減少の渦中にあるいま、事業運営を見直さざるは事業体としての義務違反と言わざるを得ないでしょう。
3. 市町村等の水道料金は市町村が判断するとの回答ですが、市町村等が所有する水源と県水のコスト差を認識してのことだろうか。県水に統合を進める企業局の“そしらぬ顔”は需要者である県民を愚弄するものでしかありません。
[質問5]
以上ご質問いたしましたように、茨城県の水需給は人口の急減というまったく新しい局面を迎えました。最早従来の政策手法は通用しないものと存じます。
失礼ながら、これまでの「いばらき水のマスタープラン」も、改訂というより破たんの繰り返しでした。現行のマスタープランもまた「茨城県総合計画」が破たんを証明しています。
これまでの「いばらき水のマスタープラン策定委員会」を見直し、市民を加え公開の場で行うお考えはございませんか。
[回答]
いばらき水のマスタープランの改訂につきましては、現在、国が行っているダム事業の検証結果を見極めた上で、改訂が必要かどうか検討してまいります。(企画部:水・土地計画課)
[見解]
これまで繰り返してきた「いばらき水のマスタープラン」の破たんをまったく反省していません。過ちを正すに何を憚るのか。「学識経験者に諮る」という大時代的な手続きで市民の口を塞ぐことは許されないことです。
茨城県の水問題を考える市民連絡会(順不同)
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