利根川・江戸川有識者会議 「茨城の会」が見解(2012年10月)

利根川・江戸川有識者会議 「八ッ場ダム建設先にありき」の議論
「八ッ場ダムをストップさせる茨城の会」が見解

約4年ぶり、9月25日に開かれた利根川・江戸川有識者会議が再び10月4日に開かれました。

会議資料は、会議を開催している国交省関東地方整備局のホームページに掲載されています。

八ッ場ダム本体着工を急ぐ国交省は、早期に本体着工の条件である利根川の整備計画を策定するために、10月中に三度、有識者会議を開き、できるだけ早く会議を終了することを目指してきたようです。

一般に重要なテーマを論ずるこのような会議は、有識者の日程調整、資料の読み込み、会議の準備などがあるため、数カ月に一度程度の間隔で開かれるのが通例です。9月25日の前回会議では、民主党の推薦で新たに加わった有識者らには日程を知らせず、資料もギリギリになって送付したことが明らかになりました。今回も国交省の強引な運営ぶりと、宮村座長の行政との一体ぶりが際立つ有識者会議でした。

前回の会議については、こちらにまとめています。
http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=1726

今回の会議についての新聞報道は、こちらにまとめました。
http://yamba-net.org/modules/news/index.php?page=article&storyid=1738

八ッ場ダムの本体工事に来年度着工するためには、本体着工の条件である利根川水系の河川整備計画を10~11月に策定する必要があります。しかし、一般に大きな河川の整備計画を策定するには数年を要します。河川整備計画は、今後30年の流域住民と川との関わり方を決める大事な計画だからです。

利根川水系は関東平野というわが国で最も大きい沖積平野を形作っている水系で、大きな支川が沢山あります。首都圏を抱え、わが国で最も人口が多く、社会的影響も大きい地域です。他の全国の河川より早くに整備計画を策定することは、本来はおよそ不可能なことです。

河川整備計画は1997年の改正河川法で新たに策定が義務づけられました。長良川河口堰に対する国民の反発に耐えかねた建設省が、河川整備計画の策定に当たって、流域住民の意見を反映させるプロセスを導入したり、有識者会議を公開で開催することになり、当時は河川行政が民主化へ一歩踏み出したといわれたものです。

これまでの河川行政は、官僚がすべてを取り仕切ってきた結果、公共事業の名のもとに一部の利権集団のみが恩恵を受け、その結果、わが国の河川はダムや河口堰などの人工構造物で破壊され続けてきました。

自然保護運動から始まった反対運動でしたが、市民団体や良識的な学者が公共事業の中身を詳細に調べるようになると、問題はさらに根深いことが次第に明らかになってきました。

国交省(2001年までは建設省)と都道府県などの自治体は、ダムや河口堰を建設しないと、流域住民が洪水に襲われ、渇水に悩まされると、大量の広報費(税金)を使ってアピールしてきましたが、役所の説明資料には、公共事業を正当化するために、科学的な根拠のないもの、データの捏造があまりに多いことが露呈し、行政への信頼は一気に失墜しました。

八ッ場ダム事業は、こうした欺瞞に満ちた公共事業の問題をすべて抱えているといってもいいでしょう。ダム予定地住民の人権を蹂躙し、かけがえのない地域社会と自然環境を破壊し、流域住民や全国の納税者を置き去りにし、ひたすら政官財の癒着構造のために血税が投入されてきました。利根川流域の住民がこうした公共事業のあり方に疑問を持つのであれば、河川整備計画の策定を注視する必要があります。

公共放送などがわかりやすく利根川の河川整備計画について解説すれば、現状や課題が一般国民にもっと知られるようになるのでしょうが、反動化した河川官僚の顔色をうかがっているせいか、今のところそのような動きは殆ど見られません。

普通にやれば数年はかかる利根川水系の河川整備計画の策定作業を早回しで進めるために、国交省がひねり出したのが次のような方策です。

●利根川水系の河川整備計画を利根川本川だけの河川整備計画へすり替え。

河川整備計画を利根川本川と支川に分け、本川だけの整備計画を策定して利根川の整備計画をつくったことにしようとしています。
本川だけであれば、昨年の八ッ場ダムの検証の際にすでに計画案ができていますので、それを使おうということです。

しかし、官房長官の裁定で求めているのは利根川水系の河川整備計画の策定であり、本川だけの計画策定では、八ッ場ダム本体着工の条件をクリアしたことにはなりません。

本川だけの整備計画を先に策定するというケースは、全国でも前例がありません。河川工学の観点から見ても、支川を先に検討して、その後に本川を検討することは考えられますが、その逆はありえません。

●治水の「目標流量」の数字だけを先に決める。

国交省が提示した「目標流量」は、4年前に国交省が提示した「目標流量」をさらに膨らませた数字で、八ッ場ダムを正当化するためにつくられました。

国交省はこの目標流量の数字を先に決めて、八ッ場ダムの建設を正当化した河川整備計画を策定しようとしていますが、それは整備計画の策定手法として基本的に誤っています。

河川整備計画は、治水、利水、環境など河川に関するあらゆる問題を総合的に考えて策定するものです。目標流量についてもそれを達成するためにはどのような河川施設が必要で、どの程度の費用がかかり、さらに環境への影響がどうなのかも合わせて考えなければ、その是非を判断することができません。それらを一切示さずに目標流量だけを先に決めるというのはナンセンスです。

●有識者会議は有識者から意見を聞くだけの場であり、整備計画の策定者は関東地方整備局長であることを繰り返しアナウンスする。

今回の有識者会議の記者発表資料には、「審議等により何らかの決定を行うものではありません。」と、わざわざ断り書きがされています。会議の場でも、こうした趣旨が国交省幹部と宮村座長によって繰り返し語られています。

策定者である関東地方整備局長は、改正河川法によれば、「河川における学識経験者の意見を聴かなければならない」とされています。「聴かなければならない」とは、意見をただ聞き置くだけという意味ではありません。策定者の権限を最大限に解釈することによって、国交省は自らの姿勢を正当化しているのです。

1997年の河川法の改正は先進諸国と比べればまだかなり遅れているといわれていますが、現状は1997年の時点より大幅に後退しています。

河川法が改正されたのは、旧建設省が国民の批判に耐えかね、責任を負いきれなくなったからですが、現在の国交省は、責任を負わずに権限だけは掌握し続けたいようです。

●行政の方針に服従する御用学者を座長に据え、反対する識者を委員に選ばない。

民主党議連の働きかけにより、反対する識者が加わりましたが、全体の中では少数です。これらの人々の正論は宮村座長によって封じられがちです。

●議事の運営は国交省が行う。

有識者会議の宮村座長は、事務方を務める国交省の操り人形にすぎません。

今回の有識者会議では、大熊孝委員(新潟大名誉教授)より、河川整備計画の重要性からすれば会議の時間が短すぎる、もっとじっくりと話し合うべきだとの提案がなされましたが、これに対して国交省が、「お忙しい委員の先生方にお集まりいただくので、長い時間はとれない」と拒否し、これについて宮村座長は何も発言しませんでした。

また、関良基委員からは、「一般傍聴席の人の意見を聴く時間も設けるべきだ」との提案がありましたが、これも国交省が拒否し、宮村座長は国交省の方針を追認するだけでした。

鷲谷いずみ委員(東大大学院教授)は、河川整備計画の策定に当たり、治水、利水、環境などのそれぞれの分野を総合的に見る必要があるのではないか、と提案しましたが、国交省はこの提案を無視し、宮村座長も同様でした。

今回の会議終了後、ぶら下がり会見で宮村座長に対して「目標流量のみを取り出して審議することに有識者から反対意見があったが、河川工学の立場でこれをどう考えるか」と質問した記者がいました。

記者の質問に対して、宮村座長は、「河川工学では目標流量を決める必要はありません。目標流量を決めるのは、そうしないと政策が前に進まないからです」と答えました。これは、「目標流量を(高く)定めないと、八ッ場ダム事業が正当化されず、そうしないと八ッ場ダムを本体着工できない」という意味です。

宮村氏は河川工学者として有識者会議に参加する資格を得ているのですが、さすがに河川工学者としては目標流量のみを審議するという今回の有識者会議を正当化しきれないようです。

利根川の河川整備計画には様々な課題があります。それらの課題に取り組むことなく、単に八ッ場ダムを推進するために河川整備計画の早期策定を目指すと言って憚らないのは、マスコミをよほど舐めていることの証でもあります。

有識者会議の中で、国交省の方針に勇気を持って反対する委員は今のところ4名です。10月4日の会議では、委員21名中、参加委員はわずか10名でした。
しかし、多くの委員が沈黙する中、4名の委員の奮闘が際立ちました。たとえ少数であっても、国民の側に立つ有識者が加わることによって、今回の有識者会議では問題の本質が提起され、論点が明確になりつつあります。

目標流量というきわめて狭い領域での議論であっても、国交省が配布した資料には著しく不正確なものが含まれており、洪水の浸水面積が実際よりはるかに大きくなるよう地図が捏造されていることや、計算手法に科学性がないことなどが指摘され、これに対して国交省も御用学者もまともな反論ができずにいます。
唯一、日本学術会議で八ッ場ダムにかかわる利根川の基本高水分科会の座長を務めた小池俊雄委員(東大大学院教授)が長々と学術会議の経過を説明しましたが、学術会議で組み立てた理論では現実の洪水との間に大きな乖離があることを認めざるを得ず、説得力のある反論と言えるものではありませんでした。

こうした状況にあって、唯一、国交省ができることは、「決定権は国交省にある」と繰り返し、議論を尽くさずに会議を打ち切ることだけです。

国交省が強引な手法を取らざるをえないのは、まともに議論すれば、八ッ場ダム建設のために国交省が示してきた論拠に科学性がないことが次々と暴露され、そのことが多くの国民に知られれば、官僚体制が矢面に立たざるをえなくなるからです。

しかし、会議の打ち切りというような強引な手法をとれば、国交省関東地方整備局の泊 宏河川部長をはじめ、幹部の人々は、国民の利益を大きく損なうことに対して、責任も負ってもらわなければなりません。行政を支持するだけの御用学者も同様です。