2011年05月

原発の過酷事故による原子力災害をどう避けるか

福島第一原発事故の防災問題

                        
元日本原子力研究所研究員 青柳長紀

 福島第一原発の原子力災害

 福島第一原発の事故は、旧ソ連で1987年に起きたチェルノブイリ原発事故に次いで史上世界第二位の大事故となった。そしてまだ放射能の放出は続いている。その被害はまさに「想定外」の規模で、9万人以上の人が避難し、村や町とその自治体全体が長期にわたり漂流することとなった。また、広範囲の放射能汚染により原乳、野菜、しいたけなどの出荷停止、海の汚染でコウナゴ≠フ出荷禁止が相次ぎ、その後一部は停止を解除された。米の作付けも土壌の汚染で禁止されたところも出ている。福島県の学校では校庭も十分に使えなくなるところも出ている。原子炉の「冷温停止」になるまで6ヶ月から9ヶ月もかかり避難住民の帰宅はそれ以降にすると国はいっている。
 このような事態はなぜ起きたのか。

 原発は大事故を起こさないという「安全神話」

 政府、経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会など国の原子力安全規制当局は、原発は何重もの防護壁と多くの安全装置を付けるように設計してあるので大事故は起こさないと「思いこんで」いた。技術的には起こりえない重大事故や仮想事故を想定しても放射能放出による放射線被害はわずかであり住民が避難するようなことは起こらないと信じてきた。このような「安全神話」は1978年米国で起こったスリーマイル島原発事故で崩壊した。この事故は原子炉設計のために定めた設計基準事故はおろか日本の想定した重大事故や仮想事故をはるかに上回る放射能を放出して、米国では約8`以内の妊婦や就学前児童の避難をさせた。その後このような設計基準事故を超えるような大事故を過酷事故というようになった。
 しかし日本の原子炉安全規制当局は過酷事故など起こらないという思いこみは変えず過酷事故対策を電力会社やメーカーに真剣に取り組むような規制の強化を怠った。原子力防災についてみると、TMI事故を参考に8〜10`の防災対策区域を設定し現在の原子力防災指針を作った。1986年旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の時も、また1999年のJCO臨界事故の時も過酷事故対策強化のため対策区域の見直しもしないまま現在に至った。

 原子力防災は役にたたなかった

 福島第一原発の場合は事故の直接の原因は、地震と津波対策が「想定外の大きさで」全電源喪失により事故に至ったのだが、規制当局の過酷事故など起こらないという過信と思いこみがその対策を怠ったことは明白で、そのことは防災指針にも明確に現れている。8〜10`対策区域はあまりにも小さく、実際には30`圏内に拡大した。更に問題なのは原子力防災は絵に描いた餅のようなもので、範囲が狭い上に避難や屋内退避の準備も全くなく、更に住民には事故の情報を正しく伝えず、緊急医療体制もないまま避難したため病院の患者18名が避難中または避難後死亡したと新聞で報じられた。対策範囲は事故の拡大と共に3〜10`圏内の屋内退避、すぐ直後に10`圏内の避難指示、その後20`圏内の避難指示、20〜30`圏内の屋内退避と複雑に変化、更に現在では事故収束が長期にかかるため30`圏内に複雑な区域設定がされている。原子力防災指針はほとんど原子力災害を防ぐために役だたなかった。

 茨城県の東海2号炉は大丈夫か

 こんな原子力災害は茨城県東海村の原発では起こらないであろうか。東海2号炉では想定外の大きな津波を受け、非常用電源の一部は海水で破損し使えなくなった。幸い生き残った電源で無事に「冷温停止」に至った。同じようなことは女川原発でも起こり、ここは原発の設置場所が高いところにあったため、大津波におそわれたが全電源喪失という事態にはならなかった。すなわち両原発は福島原発とわずかの差で助かったのである。このように目の前の原発の安全対策は全く不十分で小さな事故や故障が過酷事故につながる危険は常にあり、原発の安全運転はきわどいところで保たれている。

 茨城県の原子力災害の歴史

 茨城県は、福島第一原発の事故が起こる前は日本の原子力史上2位までを占める歴史を持っている。一つは動燃火災爆発事故であり、もう一つはJCO臨界事故である。特にJCO臨界事故は、初めて450b内の住民の避難と10`圈内の屋内退避という緊急時対策の発動があり2名の死亡者を出した。この経験で防災指針は大きく変えられ、また原子力災害対策特別措置法(原災法)が制定されたが、原発事故の防災については見直さなかった。原子力防災指針や事故対策法規はいくつもできたが、その内容が住民に十分徹底されず、住民参加の防災訓練も不十分、避難場所も十分知らされない、ヨウ素剤の備蓄とその使い方も十分説明されないなど原子力防災体制は全く不十分なものだった。オフサイト・センターも定められた機能を全くはたしていない。

 原発を続けるかどうかが問われている

 国と経済産業省は厳しい安全規制をしないで、原子力大企業と電力会社と一体になり原子力発電を強引に推進してきた。その政策は歴代自民党政権によって進められ、民主党政権も発展途上国に原発の輸出を進める政策をとっている。しかし、福島原発事故が起こったいま、原発を今後も続けていいのが問われている。茨城県東海村村長は日本テレビ「真相報道バンキシャ!」のアンケート調査に答えて「東海2号炉も福島第一原発と同じ状況になる可能性が極めて高かったた」「東海原発が福島第一と同じ状況(その可能性が高かった)になった場合、30`圏内の人口は100万人となる。また東京中心まで110〜120`である。政府や国民はこの場合どう対処すべきか一度考えてみてもらいたい」と答えている。いま福島第一原発事故の影響で県北は高い放射線レベルにあり、原乳や野菜の出荷停止による被害、水源の汚染に飲料水の一時使用停止、更に風評被害など大きな経済的打撃を受けた。国と東京電力は事故の早期の収束をはかり、受けた経済的損害を完全に賠償をすべきである。
 いま世界の流れは、化石燃料や原子力発電から自然エネルギー、再生可能エネルギーへの転換を求めている。いまこそ原子力発電に頼らないエネルギー政策を求めるべきではないだろうか。

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