2009年10月

若い世代に戦争の悲惨さいのちの重さを語り継ぎましょう

講演する澤地久枝さん(10月3日、石岡市)

澤地久枝さんが記念講演
 石岡地域憲法9条の会は結成3周年を記念して10月3日の午後、石岡市民会館大ホールで「9条の会」呼びかけ人の作家、澤地久枝さんを迎えて講演会を開催しました。地元石岡地域をはじめ県内各地から会場いっぱいの920人余が講演に聞き入りました。
 澤地さんは「いのちの重さ」と題して約90分にわたって講演しました。その概要を紹介します。

(文責 「茨城民報」編集委員会)

国民の力で政治を変えた

 「9条の会」は2004年6月10日に9人がアピールを発表して結成されました。今年の6月で5年を経過していますが、この間に小田実さんと加藤周一さんがなくなり、いまは7人となっています。
 小田さんは「市民が動かなければ、世の中は変わらない」といい、黒皮のかばんを持ち歩いて時間を見つけては原稿を書いていました。
 今度の総選挙では、暮らしの問題、雇用の問題など政治に強い関心が向けられ自公政権が倒れ、民主党中心の政権が誕生しました。世界でもっとも忍耐強いといわれている日本の国民がついに切れて政治を変えました。遠くにあると思っていた政治が身近なところにあると気づかされた選挙でした。

遺骨も見つかっていない戦死者に向かって

 私は物書きになって、自分の戦争体験から、戦争でなくなった無名の兵士の人々を書こうと思って生きてきました。作家の大岡昇平氏はレイテ島海戦について書いています。米軍の艦砲射撃を受けて死の逃避行を続けた日本軍のこと、捕虜生活のことが赤裸々に描写されています。私はレイテ島にもミッドウエーにも取材に行きました。そこで亡くなったのは名もしられない若者です。海で死んだ遺骨はひとつも帰っていない。私は船で海にいったのですが、海の前で遺骨も見つかっていない多くの戦死者に『私といっしょにふるさとへ帰ってください』と語りかけました。涙が止まりませんでした。

戦争体験を語らなければ死にきれない

 中国大陸でも満蒙義勇軍、満蒙開拓団という形で祖国を守るという名目で多くの方々が犠牲となりました。二度と戦争はしない、そのために憲法9条は大切です。しかし、安部内閣は国民投票法案を強行しました。
 いま90歳を過ぎた人々があの戦争体験を語りつがなければ死にきれないと、中国大陸でいかにひどいことをやったか、戦争でいのちと人生をいかにだいなしにしてきたか語りはじめました。日本は戦後いろいろなことがありましたが、憲法9条が最後の歯止めになって、一人たりとも他国の人を殺さずに今日まできました。これは私たちの誇りです。

いかにいのちが粗末に扱われてきたか

 私が琉球大学で教えていたとき、あなたの父方母方の祖父母、総祖父母などたどれるだけたどって、何歳で死んだか、学歴がどうだったか、そしてそのことについて短い感想をのべよというレポートを求めました。そうすると戦争や病気がいかにいのちをおびやかしてきたかがよくわかります、日本人のいのちが大事にされてこなかったかがわかります。自分の国でいのちを大事にされなかった国民が、他国で人間のいのちを大事にするでしょうか。

テーブルを囲んだ小さな「9条の会」を

 若い人に平和の大事さを語ろうではありませんか。テーブルを囲んだ小さな「9条の会」をつくり広げてほしい。みんなでやろうではありませんか。そうでない日本の未来は万全というわけにはいかないと思います。

民生を安定させてこそ。中村医師の取り組み

 2001年9月11日にアメリカで集団テロ事件がおきました。テロは絶対に許されないことですが、テロリストを憎むだけでは問題は解決しないと、中村医師は家族を九州に残して、アフガニスタンでペシャワール会をつくり、ブルドーザーを動かして現地の人々と灌漑事業をやり水を供給し農業振興と民生安定に努力しています。今度、私は中村医師のことを書こうと思っています。なかなかアフガニスタンにはいけませんが、中村さんは「無駄ないのちが失われることがないように熱いいのりをあげてください。1人の100歩より100人の一歩、半歩でもいい」といっていました。平和の声を国会に反映させていきましょう。憲法9条はテロをなくす力でもあります。

ご一緒に戦争体験を語り継ぎ

 戦争をやっていいことは何もありません。いいことがあるのは軍需産業の関係者の人だけでしょう。ご一緒に戦争体験を語り継ぎ、憲法9条を守っていきましょう。一緒に歩いていきましょう。

<澤地久枝さんのプロフィール>
1930年に東京で生まれる。41歳で作家デビュー。デビュー作「妻たちの2・26事件」。代表作にミッドウエー海戦の日米の戦死者の記録を克明に追った「うみよ眠れ」
・「記録ミッドウエー海戦」(菊池寛賞受賞)
・外務省機密漏洩事件の真相に迫った「密約」
・「希望と勇気、この一つのものーーー私のたどった戦後史」
・「家計簿の中の昭和」
・「琉球布紀行」
・「世代を超えて語り継ぎたい戦争文学」佐高信:共著など多数。


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