2009年09月

トステム日系ブラジル人労働者の派遣切りとのたたかい

〔投稿〕全日本金属情報機器労働組合(JMIU) 茨城地方本部委員長 大滝 誠

   建材大手のトステム(株)から解雇された日系ブラジル人派遣労働者34人が労働組合(全日本金属情報機器労組JMIU)に加入し、解雇撤回、直接雇用を求めてたたかっている。彼らのたたかいがマスコミで大きく取り上げられていることから、茨城県内でもJMIUには連鎖的に雇用相談が寄せられている。
 昨秋以来の全国的な“派遣切り”の嵐に抗して全国各地でのろしが上がっているが、労働組合に多数結集してのたたかいはこの茨城では日系ブラジル人が先陣を切ったことになる。
  彼らがたたかいの先陣を切ったのには「なるほど」と思わせる理由がある。
  第1に、彼らは多くが勤続10年前後で、トステム土浦工場の事業開始以来のベテラン技術者である。工場を安定軌道に乗せるために時には24時間連続労働を繰り返し、日本人の新人社員の教育も担当するなど、まさに、工場発展の功労者ともいえる存在である。派遣元サンワークの社長も労使交渉の席上、トステムからは「ブラジル人労働者の貢献あってこその土浦工場だと評価されてきた」と振り返っている。もしも「派遣は補助的・臨時的な労働力」という思いこみが日本社会の中に根強く残っているとするならば、その認識は即刻改める必要がある。彼らは生産ラインの主力労働者であり、そのプライドをもって働いてきた。
  第2は、彼らの権利意識の高さがあげられる。自分たちが、法律で製造業に派遣が認められる前から働き、“請負”と“派遣”を繰り返して法律上の年限規定をかいくぐって働かされてきたこと、実態が“偽装請負”であったこと、そして自分たちは法律上トステムに“直接雇用”される権利があるということを繰り返し学ぶ中で、「法律がそのように定めているならば堂々と主張して会社に法律を守ってもらう」という方向がストレートに胸に落ちたということである。一見、何の変哲もない思考経路に思えるが、今の日本の労働者の意識は単純にそうはならないことが多い。長いものにまかれる、自分が声を上げてもどうにもならないという“あきらめ”が先行してしまう。ここが、政財官癒着の自・公政権に痛めつけられ、ともすれば自分の権利を主張することに消極的になりがちな日本の労働者と労働組合出身の大統領をもつブラジル人労働者との権利意識の違いなのか。
   第3はトステムならではの理由である。サッカーJリーグのトップレベルチームである鹿島アントラーズのメインスポンサーはトステムである。ユニフォームの胸の“TOSTEM”の文字は実に鮮やかである。そしてアントラーズといえばジーコなどブラジルの選手や監督の活躍。ブラジルとの絆なしにアントラーズは語れないといっても過言ではない。ブラジル人が活躍するアントラーズのスポンサーであるトステムで生産の中枢で働いてきた彼らが抱いてきた喜びと誇りはきわめて大きい。その信頼してきた会社から一人残らず首切られた日系ブラジル人の失望と怒りが彼らの団結力、行動力の源泉となっている。
  3月の申告から3ヵ月を経過して茨城労働局は、トステムに労働者派遣法違反があったことを認定し是正指導を行った。違反が認定された以上、トステムは法の定めに従って彼らを直接雇用するべきであり、今後の交渉はそのことを厳しく追及することになる。さらに、水戸地裁土浦支部に申し立てている地位保全の仮処分命令が早急に出されることも待たれる。
  雇用保険法の緊急的な改正や自治体の緊急住居対策などでぎりぎり生活を支えながらのたたかいとなっている。失業者保護政策の数段の改正、緊急措置の拡充が待たれる。
  組合員は現在それぞれの家族を含めた生活の支え合いに奔走しながら、派遣元サンワーク、派遣先トステムとの交渉、トステムの親会社である住生活グループへの要請、彼らのたたかいを知って相談にきた多くの仲間を支援する取り組みに東奔西走の毎日であり、私たちにとって心強い仲間として奮闘している。
  祖父・祖母、父・母の故郷、あこがれの国日本に来て、希望に胸ふくらませて働いてきた彼らを襲っている悲劇は日本の労働者の責任としても打ち破らなければならない。“万国の労働者団結せよ”が胸に迫る毎日である。

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