2009年2月

映画「蟹工船」を通じて見えたもの

映画「蟹工船」を上映する会     事務局長 小松正英

立ち見が出るほど盛況

 私たち映画「蟹工船」を上映する会は1月24日、土浦市の亀城プラザ文化ホールにて昼夜と2回上映を行いました。おかげさまで、昼は300席の会場に立ち見が出るなど、夜と合わせ460人もの方々に足を運んでいただきました。
 映画「蟹工船」との出会いは、牛久の公民館でした。県南青年革新墾のメンバーといっしょに参加しました。

準備会スタート

 その後、県南の青年でなんとか「蟹工船」の上映会をできないかと検討を始め、「蟹工船」のDVDを鑑賞しました。県南青年革新懇メンバーに労働組合の方や茨城映画センターの方にも声をかけ準備会をスタートさせました。準備会では、まずどんな人に観てもらいたいか?などを考え、成人式後の日曜日で調整を図りました。それは、「蟹工船」ブームを巻き起こしている若者に観てもらいたいとのことから、成人式宣伝ありきの計画を立てました。チケットの値段も、非正規の労働者や若者に観てもらいたいということで前売り券を800円とし、場所も電車で来れるという条件で土浦市の亀城プラザに内定しました。

実行委員会を積み重ね、活発に宣伝行動

 第1回実行委員会では、県南青年革新懇はもとより労働組合・その他各民主団体から実行委員会に参加していただきました。はじめに、青年を前面に押し出す映画会にしようと担当を決め、中心となるメンバーを青年で固めました。実行委員会を重ね、1月9日より土浦駅前、つくば市.の「キュート」前での宣伝行動、土浦市民会館前での成人式参加者への宣伝行動などに取り組みました。茨城県南部の各地域へも、実行委員を通じて枝葉のごとく1人でも多くの人にこの映画に携わってもらいたいと実行委員すべてががんばりました。


中小企業の経営者は

 この間、印象に残ったのは中小企業の経営者の方に映画を勧めてみたときのことです。その方は、「昔の経営者は、会社があって社長がいて従業員がいるような感じだったけど、今は従業員がいて会社がある。従業員ががんばってくれているから、今の会社があるんだよ。会社が儲かった時には従業員にボーナスをだすのは当然だよ」と言っていたのを思い出します。
きちんと労働者に会社の利益を分配してきたそうです。ところがここ数年史上空前の利益を上げてきた大企業が、簡単に人員削減と言い、人切りをいとも簡単に行いますが、中小企業にはほとんどそれがありません。経営者の給料を下げてでも、従業員を守っているからです。大企業の経営者に前出の経営者の考え方が少しでもあれば労働者をいとも簡単にに切り捨てるという行為には及ばないだろうと思います。

二十数年生きてきて感じること

 そもそも、私のなかでは「日の丸・君が代」問題にも相通じるものがあると思いますが、この国は人間を大切にしない国だなと二十数年生きてきて感じています。それは、この「日の丸・君が代」問題を考えても国旗や国家ありきで国民は二の次・三の次という存在でしか扱われていない気がするからです。当たり前の話ですが、人間がいて、はじめて国家が存在すると私は考えます。日本はそれの逆の道を行っています。したがって、この雇用問題でも会社や経営者がいるから労働者がいるのではなく、労働者がいて会社が成り立っているのだという認識にたっていないことから、今の人間を人間とも思わない使い捨て労働の考え方が出てくるのだと思います。 ましてや、世界有数の大企業が景気の悪化を理由に人員削減を行う状況下においても、必死に従業員を守る中小企業。まさに対照的な存在です。日本にも新自由主義経済が蔓延し、「金がすべて」の世の中になりはて、人間の生命や財産をも奪い取る過酷な労働実態。資本という悪魔の存在を「蟹工船」自体が物語っているのではないでしょうか。人々は、そこに共感し変化を求め、模索しているのではないでしょうか。

青年と「蟹工船」ブーム

 今、青年はパートや派遣など不安定雇用・非正規雇用が増大するなかで労働し生活するという悪循環に陥っています。そんななかでの「蟹工船」ブーム。これは、偶然ではなく必然だと言っても過言ではないでしょう。それだけ、今の青年が「蟹工船」に登場する労働者と同じく無権利・無保障のもと安価な労働力として働かされているところに自らを重ね合わせ、最後には労働者が団結し声を挙げ、支配者と闘う。現代の流れからすれば、派遣労働組合もそのひとつだと思います。
 この前、労働法制の学習会に参加した際、派遣労働者の給与は製造業に関していえば製造コストに含まれるという話しを聞きました。正社員の給与は、人件費だが非正規の給与は製造コスト。数字からしても労働実態からしても、モノ扱いされていることに驚きを隠せませんでした。

雇用問題と憲法25条

 この雇用問題を機に、昨年末から年初にかけて東京・日比谷公園に「年越し派遣村」が誕生しました。救いを求め、全国各地から契約打ち切りなどにあった労働者が集ってきたと報道で耳にしました。
 この雇用問題は、まさに労働者の命をかけた闘いなのは言うまでもありません。自らの都合のいいときだけ雇用し、雇用調整の名のもとに行なわれる人員削減。派遣労働者は、住む場所さえも奪い取られ、生きる糧を奪われています。憲法25条にうたわれている生存権、つまり「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」いまの非正規労働者、特に派遣労働者における雇用環境・生活環境はこれ以下の何ものでもありません。ワーキングプアと呼ばれている労働者の実態です。健康で文化的な生活も送れるはずがありません。まさに、憲法違反の労働行為を認めるような労働者派遣法の規制緩和をしてしまったわけです。自分の生活で、精一杯な労働者が増大することにより国内消費は冷え込む一方です。労働者派遣法の規制緩和は、貧困と不況を招く元凶でした。

地域経済の現状と政治の責任

 飲食店や小売業などの経営者の方々はリーマンブラザーズの破綻前からお客の減少を訴えていました。公務員は、よく飲みに来るけどそれ以外はさっぱり来ない。来ても小額にとどまる。その大本に何があるのか考えたところ、労働法制の改悪により、ここ数年急激に増えている年収二〇〇万円以下のワーキングプアと呼ばれる労働者の存在が浮き彫りとなりました。低所得者が増えれば増えるほど、サービス業はもとより小売業も顧客や売り上げの減少など地域経済が機能していかない状況も生まれてきています。この非正規雇用の増大が、今日の日本経済を揺るがしています。
アメリカ言いなりの政治が招いた結果だと思います。日本には日本の文化があるのに、それを壊してまで労働力の自由化・国際競争力などというまやかしにごまかされてきました。日本も、れっきとした独立国家なのですから、これから先の日本経済を立て直す意味でも労働法制の整備に躍起にならなければ嘘です。
 最後に、職を奪い住まいを奪い、生きることさえ許されない状況を作り出している現状は、政治の責任だと強調して文章を閉じたいと思います。

 

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